「ミナちゃん、スイスに着いた途端、『私、この空気嫌いじゃないかも』と言ったんです。肩の力が抜けたようで、何かするたびに私たちに『ありがとう』と繰り返していました」

 小島さんは安楽死を迎えられることを「救い」と捉えていた。小島さんは生前、本誌にこう語っていた。

「安楽死は、私に残された最後の希望の光なんです」

◆死ぬ覚悟と寝たきりになる覚悟、後者の方が怖い

 彼女の存在を最初に報じたのは、2018年9月27日発売の本誌・女性セブンだった。医療技術の進歩とともに、現代人の平均寿命は飛躍的に伸びた。病床にあっても生き続けられる。延命が本人の意思であれば何ら問題はない。だが、希望に反して生かされている患者に「尊厳」があるかどうかを問う声は高まっている。そうした問題意識のもと、本誌は安楽死を希望する当事者を探した。すでに小島さんと連絡を取っていた宮下氏に協力を頼み、本誌は彼女と会った。

 新潟県の某病院。病室の扉を開けると、小島さんは、奥の傾斜が付いたベッドに腰掛けていた。呼吸器も装着してなければ肌艶もよかった。病室にいることを抜きにすれば、健康な女性にしか見えない。そんな彼女は、冒頭、思いもよらぬ言葉を口にした。

「たとえば今、ここに医師が現れて、この薬を1つのめば死ねますと言われたとしたら、すぐにのみますよ」

 彼女は言葉を継いだ。

「今は少なくとも、姉たちが見舞いに来てくれるから、幸せなんです。看護師さんも先生もいい。だけどそれは幸せということであって、楽しいということとはまた別なんですよ。あなたは幸せですかと聞かれたら、はいと言います。でも、楽しいですかと聞かれたら、返答に困ります」

 幸せだけど、楽しくはない。そんな複雑な思いを口にした。

 彼女が患う多系統萎縮症とは、5万人に1人が発症する神経性の難病。小脳などの異変によって、体の平衡感覚を失い、歩くことが困難になって、次第に言葉もままならなくなる。すでにインタビュー時には、呂律が回らないこともあった。

 最終的に食事も排泄も、自分の力で行えなくなる。現時点で、有効な治療手段はないという。

「情けないのが経済の話。私みたいな病気になると、働けない。でも生活していかなきゃいけない。所持金が100万円だとします。1年と余命宣告されれば、その間100万円を使う計画が立ちます。でも私の病は20年以上生きている人がいる。100万円を20年で使うのか1年で使うのかもわからない」(小島さん)

 病は確実に進行する。この病が怖いのは、その速度が緩慢なことだと彼女は言った。

「2つの覚悟が必要なんです。1つは死ぬ覚悟。もう1つは寝たきりになる覚悟。私は後者の方が怖い。排泄の処理までしてもらっても、ごめんねもありがとうも言えない。その覚悟の話をした時に、姉たちも私の気持ちを理解してくれました」

 小島さんがそう話す横で恵子さんは頷いていた。

 しかし、そこには家族としての葛藤もあるようだった。

関連記事

トピックス

遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
《スクープ》“連立のキーマン”維新国対委員長の遠藤敬・首相補佐官が「秘書給与ピンハネ」で税金800万円還流疑惑、元秘書が証言
NEWSポストセブン
2018年、女優・木南晴夏と結婚した玉木宏
《ムキムキの腕で支える子育て》第2子誕生の玉木宏、妻・木南晴夏との休日で見せていた「全力パパ」の顔 ママチャリは自らチョイス
NEWSポストセブン
大分県選出衆院議員・岩屋毅前外相(68)
《土葬墓地建設問題》「外国人の排斥運動ではない」前外相・岩屋毅氏が明かす”政府への要望書”が出された背景、地元では「共生していかねば」vs.「土葬はとにかく嫌」で論争
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
《雅子さま、62年の旅日記》「生まれて初めての夏」「海外留学」「スキー場で愛子さまと」「海外公務」「慰霊の旅」…“旅”をキーワードに雅子さまがご覧になった景色をたどる 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
《悠仁さまの周辺に緊張感》筑波大学の研究施設で「砲弾らしきもの」を発見 不審物が見つかった場所は所属サークルの活動エリアの目と鼻の先、問われる大学の警備体制 
女性セブン
清水運転員(21)
「女性特有のギクシャクがない」「肌が綺麗になった」“男社会”に飛び込んだ21歳女性ドライバーが語る大型トラックが「最高の職場」な理由
NEWSポストセブン
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン