「単なる詐欺師が金儲けをして捕まった──とはしないよう心がけました。それで男性不信なところとか、過去のトラウマとか、最初はなかったんですが、そういうのも入れていったんですよね。希林さんも『女の人の哀しみとか、そういうのもちゃんと出さないとね』って。
あと、なるべく詐欺師っぽくしないよう意識しました。私は動物愛護をしているのですが、それを希林さんに話す時、結構熱弁するんです。『あんな感じで詐欺の場面をやるといい。ああいう話し方をすると、詐欺に遭う人たちも信用するから』って。
最後も、『こいつ、またやるぞ』っていう形で終わらせたかったんです。本人はそんなに悪いと思っていない──っていう」
樹木希林は浅田の母親役で出演、浅田と二人で「夕焼け小焼け」と口ずさんでいる。そして、これが樹木希林にとって遺作となった。
「あの場面、当初は希林さんの歌だけだったんです。けど、聞いているうちに私も口ずさみたくなって歌っちゃったんです。あれは、ちょっと物悲しかったですよね。希林さん、もうそこにいるだけで凄いと思いました。現場でも絶対に近寄らないですし。
希林さんにお返ししなきゃと思っています。それができるのは、お芝居を通してでしかないんですよね。それでいうと、私はまだまだです。今回ここでお返しできなかったとしても、次、次ってやっていかなきゃなって、思っています」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中
■撮影:藤岡雅樹
※週刊ポスト2019年6月28日号