他にも韓国語になっている日本語は多数あるが、学校には特に多いという。なぜか。元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏はこう説明する。
「日本が併合して統治するまで朝鮮には両班(朝鮮王朝時代の支配階級)の子息が儒教を学ぶ『書堂』しかなく、誰もが教育を受けられる国民学校を整備したのは日本です。だから、学校の中で使われる言葉の多くが日本語由来なのです」
「日本語由来だから破棄する」としたところで、その言葉を代替する元の韓国語がないため置き換えようがない、というのが現実である。
江戸末期から明治にかけて、慶應大学の創設者、福沢諭吉が中心となって外国からの書物を輸入して翻訳したときに、当時、日本にはなかった西洋発祥の概念を表現するため、「経済」「社会」「科学」「健康」「文化」「常識」などさまざまな新造熟語を作り出した。日本で作られた熟語は中国や朝鮮にも伝わり、その概念とともに新たに使われ出した。特に韓国は日本が36年間統治していたので、非常に多くの日本製熟語が韓国語になっている。
それらについて韓国人は漢語由来の「中国から入ってきた言葉」と思っているかもしれないが、実は日本由来のケースが多い。韓国語の会話を注意深く聞いていると、ところどころ日本語っぽい言葉が出てくるのはそのためだ。
こうした現状と歴史を知っていれば、日本語由来の言葉を日帝残滓として位置づけようなどという発想は出てこないはずである。
「要するに、日本に関して無知なんです。戦時中に日本兵に対して『ファイト!』なんて“敵性語”をかけるわけがない(笑)。韓国の学校では入試に向かう先輩を後輩が『ファイティング!』と言って送り出すんですが、これはたぶん、日韓バレーなどで日本チームが『ファイト!』と選手を送り出すのを聞いて、それが広まったものと思います。日本軍も日本統治も関係ない。日本統治時代に学校が整備されたという事実さえ知らないと思います」(前川氏)