『コジコジチャンネル』では、他にもキャラクターを生かし続ける工夫を行っている。動画リストをチェックすれば、戦略的に動画配信をしていることがわかった。
全編公開しているのは1話~5話まで、他の動画は名場面集となっている。「コジコジのきつい一言」「コジコジVS不良」「次郎君の正月」など、作中の名シーンをまとめた5分ほどの動画を40本以上ラインナップ。『コジコジ』を知らない人でも気軽に観られる環境を整えている。
今の時代、ザッピングできるチャンネルは無限。いきなり20分を超える本編を観てもらうのは難しい。新規ファン開拓の間口は広めにとられている。
さくらといえば、代表作『ちびまる子ちゃん』やエッセイ集『もものかんづめ』など、身の回りで起きた出来事をユニークに描くことで大ヒットを飛ばした作家である。日常生活のなかに潜む”笑い”を発見し、表現として打ち出す。普遍的な作品には、年齢関係なく多くの人を爆笑させる力を持っていた。
しかし、「さくらの作品がなぜ面白いのか?」を説明することは難しい。一見、平易に映る作風だが、笑いのメカニズムは複雑。大ヒットしたにも関わらず、模倣者が出てこない理由はココにある。仕組みを解明できないため、パクることは難しい。
さくらの作品には相反するものが共存している。かわいい絵柄に深いメッセージ性、浅はかな事柄から覗く真理。序盤には「庭の花がキレイだった」と書かれていたエッセイが後半になると宇宙の最果ての考察になっている。天才と呼ばれる人種にしか持ち得ない”極端さ”があった。強弱はあれど、漫画、エッセイ、脚本と全ての作品に”極端さ”が作用。結果、独自の中毒性ある笑いを生み出していた。
その”極端さ”が最も作用したのが『コジコジ』だったと思う。自伝的な作品とは異なり、作者自身がイチから世界観を築き上げた力作である。
舞台はメルヘンの国、ここで暮らすキャラクターは人気者を目指している。ミッキーマウス、スヌーピーのような世界的なキャラクターが憧れの的。先人のようなキャラクターとなるため、日々学校で学ぶ。主人公コジコジもその一人だ。クラスメイトには「飛べない鳥、泳げない魚」という特徴を持つ次郎、メルヘンの国を照らす太陽ゲランといった濃いメンツが勢ぞろい。コジコジとクラスメイトが巻き起こす騒動とは!?
メルヘンの国といった舞台設定にも関わらず、『ちびまる子ちゃん』のような世知辛い描写も多い本作。次郎との雑談でコジコジは物事の本質を突く。建前の全くないコジコジにクラスメイトは翻弄される。
さくら作品はなにかと影響力が強く、一度触れると離れることが難しい。僕は20年前以上前に読んだ『もものかんづめ』に書かれた水虫撃退方法を今でも覚えている。出がらしのお茶っぱを患部に巻くと完治するという。いつか試しめてみようと考えているが、ラッキーなことにまだ足裏に痒みを感じた経験がない。
話が逸れてしまったが、『コジコジ』が新しく復活できたのも、さくらの作品が持つ求心力ゆえ。20年間、アニメの放送はなくともファンの心からコジコジが消えることはなかった。
約1年前、さくらは亡くなった。YouTuberになったコジコジを観てどう思うのだろう。感想を聞けないことが今とても寂しい。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)