いつからか、日本は恋愛ばかりの国になってしまった。2009年にNHKで放送された『SONGS 井上陽水特集』でオダギリジョーが興味深いコメントをしている。
「日本の歌の詞が嫌いなんですよ。しょうもないことばっか言ってるでしょ、好きだの嫌いだの(この後、井上の歌詞の魅力を語る)」
恋愛は難しい。好意や嫉妬、または友情、徒労、癒しと怒りなど数え切れないほどの要素が絡み合っている。なかには複雑な感情を歌い上げる曲も知っている。ただ、同数もしくはそれ以上に表面的な好きだの嫌いだのを歌う曲が多い。
これはドラマにも該当し、今も似た作風の恋愛ドラマが量産されている。この事態に一番飽きているのは視聴者よりも作り手かもしれない。表現者にとっての喜びは、なんたって新しいものを生み出し、評価されること。いい歳をした役者が”好きだの嫌いだの”といった演技だけを続けることは、精神的にもキツい。精一杯演じるからには、鑑賞者の心を揺さぶる作品に関わりたい!と願うはずだ。
そういった意味で「バブル期×アダルトビデオ業界」といった狂うこと2乗の『全裸監督』は役者陣とって、この上ない舞台と言える。冒頭で紹介した映像で満島が「あの日々に戻れる!」と言ったことが思い出される。深い意味を持つコメントだと思う。ブリーフ一丁でやりたいことをやった山田は「奥さんと奥さんの親族にいよいよ見せられないものをやってしまったなと思っています」と自らの挑戦を語った。『全裸監督』は攻める姿勢を忘れかけた表現者に対して刺さる作品に仕上がっている。
本作では「金と性」、人の欲望が渦巻く業界の裏側を覗くことができる。「エロを売る」アウトサイダー達の日常。興味深いに決まっているじゃないか。しかし、観たらタダでは帰してくれない『全裸監督』。視聴者に「お前はどう感じた?」と問いかけてくる。
答えを探すために自己対話をすれば、普段は見過ごしている心の暗がりに気づく。そして闇がすぐ近くにあると知りながら、エロを表現し続けた村西を筆頭とする変人達の強靭なメンタルに憧れる。