変人たちが奏でる物語の舞台となるのが、団塊の世代が30代の大人になり、新しい文化が生み出された1980年代。日本という国そのものが青春を謳歌していた時代である。そんな季節に村西が添えた一輪のエロ。AVという新しい表現方法を用い、業界の“帝王”へと成り上がった昭和最後のエロ事師の立志伝である(2016年に上梓された原作本では“帝王”の座から陥落していく様子も書かれている)。
シーズン1で映像化されたのが、村西の創造性が最も時代に愛された時代だ。
ドラマの序盤、北海道を拠点としたビニ本(ビニールで梱包されたえろ本)製作で天下取り。中盤になると、表現手法はビニ本からAVへ。更に成功を重ね、前代未聞ハワイでの海外ロケも敢行。終盤の村西はもう時の人である。ミューズ黒木香と共にAV業界では収まりきらない存在に。AV監督とAV女優が地上波のバラエティ番組に出演し、お茶の間の人気者になった時代が確かにあった。ドラマでは村西の32歳から39歳までが描かれている。
なお、村西の人生は「創造的人生の持ち時間は10年」と宮崎駿が『風立ちぬ』で残したセリフを証明するように、42歳以降は光を失っていく。シーズン2では人生の春から一転、借金との戦いが映し出されるのだろう。
村西は一般視聴者が共感することができないキャラクター性を持っている。業務用カメラ片手に白いブリーフ姿を正装とする村西に感情移入することは難しい。存在そのものがフィクションに近い。
過激な人柄を演じつつ、現実感も出さなくてはならない。村西を演じることは名優・山田をもってしても難しかったはずだ。しかし、山田は絶妙なバランス感覚で稀代のエロ事師を見事に体現していた。虚構と現実の中間に位置する存在を自身に憑依させ、2019年に全盛期の村西を復活させた。稀代の変人を演じることは、山田にとってハードかつ魅力的な仕事だったと思う。
村西は変わった倫理観を持っており、譲れない哲学と美学がある。全盛期には時代の寵児しか持ち得ないオーラもあったはずだ。『全裸監督』の製作陣は時代の熱量の再現に挑戦している。そして、村西というフィルターを通した、誰も観たことがない1980年代を現代に蘇らせる。主流の恋愛モノも悪くはないが、変なドラマがあってもいい。AVに人生を捧げた男のドラマがあってもいいはずだ。