無人島での3日目には、スタッフがタバコを1カートンで差し入れ。それを契機にタバコ経済はより活性化していく。「イカダの材料となる竹を10本切り出し、作業場まで運べばタバコ10本」といったように人の労働を支配できるほどに力を持ってしまったタバコ。さらに高学歴チームは口八丁で中卒チームを騙し、無人島におけるタバコを独占。中卒チームをタバコ労働地獄へと追い詰めていく。
結果として無人島企画の見せ場は、イカダによる脱出よりも市場経済が出来上がっていく過程にあった。「だいにぐるーぷ」は無人島といった何もない場所で、世の中の金持ちが貧乏人をいかに搾取していくかを再現。タイトルからこの展開は想像できない。
現状、YouTuberの動画の魅力はDIY精神と即興性にある。稚拙かつ雑味な動画だが、時折プロが”撮れない瞬間”を映し出すことで人気を博していった。しかし、”撮れない瞬間”はプロが”撮らない瞬間”とも言い換えられる。くだらなさ、下品さ、過激さで名を挙げたYouTuberは多い。完成度の高い動画という観点において、YouTuberはプロと同じ土俵に立てていない。企画力、ノウハウ、画面構成力のレベルは段違いである。ゆえにYouTuberはパーソナリティー、内輪ウケ、ノリに依存した「面白さ」を提示。動画から幼い印象を抱くことも多かった。
しかし「だいにぐるーぷ」に限っては、例外的な存在である。通常、YouTuberは出演者と製作者の役割を兼ねていることが多い。編集も自らこなすため、主観的に動画が作られていく。対して、テレビ番組において制作者が出演者の役割をこなすことはない。出演者のどの部分を使うのかは、製作者の視点で判断。客観的に作っているため、間口が広い番組を視聴者に提供することができる。「だいにぐるーぷ」の動画は後者に近く、一人称ではなく三人称の動画が作られている。
「1週間」シリーズの動画には、テロップ、ナレーション、アニメによる解説が入る。よく見かけるYouTuberたちの動画と比べると、画面の情報量が圧倒的に多い。何台もあるカメラ、ドローンによる撮影も効果的に活用し、様々な角度から事象を映し出す。多様な素材から最も効果的な映像を選んでいるため、動画の意味が視聴者にも伝わりやすい。
そして、最も優れている点が撮影中に起こる事件を用意していることだろう。無人島で発生したタバコ経済も、おそらく偶然から生まれたものではない。動画撮影にあたって事前にネタを仕込んでいたはずだ。「だいにぐるーぷ」の手法は、放送作家によって支えられているバラエティ番組と似ている。成果物である動画の山場を即興に頼りすぎないため、内容は一定の水準を下回ることがない。
毎日更新していくことはせず、不定期に動画を公開していく新しいYouTuber「だいにぐるーぷ」。現在、チャンネル登録者は数約50万人と意外に少ない。高学歴と中卒の6人組が今後どのように有名になっていくのか、今後も追いかけていきたい。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)