◆「グレシャムの法則」
経済学の貨幣理論では、額面価値と実質価値に乖離が生じている貨幣が複数ある場合、より実質価値の低い貨幣が流通するという法則がある。これは、「悪貨は良貨を駆逐する」という言い回しで知られている。この法則は、1560年にイギリスの良貨が海外流出している原因を、当時の国王エリザベスI世に説明した財政家グレシャムの名前にちなんで、後世にグレシャムの法則と名付けられたものだ。
しかし、この法則の内容は、1519年の時点でポーランドの天文学者コペルニクスなどによって、すでに発見されていたといわれている。
◆「ロピタルの定理」
微分積分学で、関数の極限計算において、一定の条件のもとで微分を利用して簡単に計算できるようにする方法として、ロピタルの定理が知られている。定理の名前は、この定理を公表したフランスの数学者ロピタルにちなんでいる。
しかし、実際は、この定理はスイスの数学者ヨハン・ベルヌーイが発見したもので、その命名権が2人の間で対価とともにやり取りされた結果、ロピタルの名前が付けられるようになったといわれている。
このように、スティグラーの法則の例は、さまざまな分野でみることができる。
それでは、なぜスティグラーの法則のようなことが起きるのだろうか。これにはいくつかの原因が考えられるが、アメリカの社会学者ロバート・マートンによって提唱された「マタイ効果」が、そのうちの1つといわれている。
すなわち、「著名な科学者とあまり知られていない研究者とでは、たとえ両者の研究内容が似ていても、著名な科学者のほうが多くの評価を得る」というものである。この効果によって、著名な研究者の名前を冠した法則が多く出てくるというわけだ。
なお、マタイ効果のマタイは、新約聖書の4つの福音書の1つで、「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」という話から出てきている。「富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる」という悲しい現実が、背景にあるものといえる。