◆女性の手際のよさをリスペクト。食を通してさまざまな思いが
調理を主導するのはやはり女性陣だ。少々ぎこちない男性の卵の溶き方を「菜箸を束ねて持って縦に動かすのよ」と女性がレクチャー。それでもうまくできず、スープの中の卵がまだらになったが、「まあ、これもありだね」と一同で大笑い。技術の習得ではなく、この場をみんなが楽しもうとしている。
「ここでのレシピを綴じて、気に入った料理は何度も作っています。しかし、つくづく女性はすごいねえ。料理が上手にできる。男はダメだ(笑い)」
そう語ってくれたのはこの日最年長の85才の男性。30年近く前に妻と死別し、以来、自己流で料理をしてきたが、ここでしっかり習おうと思っているという。女性たちの手際や塩梅を実によく見ていて、85才にして少年のような探求心が魅力的だった。
◆食の感動は次につながる ひとりの食卓も豊かに
『シニア食堂』を主催するのは、婚活支援のNPO法人。かつてシニアの婚活支援をした中で、多くのシニアは結婚相手より、話し相手や一緒に食事をする相手を求めていると気づいたのが発端だという。おひとりさまでも孤立せず、継続的にみんなに会えて、QOLに直結することを考えて『シニア食堂』を企画した。
2017年のスタート当初は会員数4人だったのが、今は60人超の盛況だという。同法人副代表の松澤知沙さんは、こう話す。
「シニアにとって、誰かと時間を共有することは大事ですが、参加した時だけが楽しいのではだめ。料理のおもしろさ、おいしいものを食べた感動や共感が、その人のひとりの時間も潤すというのが食の力だと思います」
これからますます増えると思われる独居高齢者の孤食に、本人が料理を楽しむことで挑めるのではないか。『シニア食堂』の生き生きとしたシニアたちを見て思った。
※女性セブン2019年10月31日号