国内

中曽根康弘氏が説いていた「総理大臣に求められる覚悟」

中曽根氏の白寿を祝い会合に出席した安倍首相(2017年5月15日/時事通信フォト)

中曽根氏の白寿を祝い会合に出席した安倍首相(2017年5月15日/時事通信フォト)

 1982年から4年11か月に及び長期政権を担った中曽根康弘元首相(101歳)が亡くなった──。中曽根氏は2012年、一度辞任した自民党総裁選に返り咲いた安倍晋三氏や、当時の橋下徹大阪市長に向けて、“最高権力者に求められる覚悟”を説いていた。『SAPIO』(2012年11月号)でのインタビューを再録する。

 * * *
──安倍晋三元首相が自民党総裁に選ばれた。だが、首相時代には体調不良を理由に途中で職をなげうった。

中曽根:安倍君の祖父である岸(信介)さんは一念を持って愛国に徹していた。その背中を見ていたからだろう、安倍君にその信念は受け継がれている。本格派の政治家だと期待していたし、今も期待している。あのときは体調も考えて、国の政治に対する責任感から身を引いたのだと思う。その後も志を変えないで歯を食いしばって政治家としての修養に努めた。吉田松陰以来の長州の政治家の伝統を引き継いでいると思う。

──総裁選では5人の候補全員が、尖閣諸島でもめている中国にもっと厳しく対峙すべきだと主張した。

中曽根:領土・主権は、政治家、特に総理大臣にとって命にかえて守るべき重要なものだ。「不脅威、不侵略」の方針を掲げつつ、主権を擁護する。領土問題についてはそのような信条を堅持することが要諦だ。特に近隣外交については、総理大臣の信念を周辺国の人々が見ている。信念の強さが国の運命に大きな影響を与える。総理大臣は日本の運命を背負っていると自覚すべきだ。

──日本が弱腰だと相手はより強く出てくる。

中曽根:中国外交をよく見ていると大変に興味深い。最近は非常に洗練されてきている。影を潜めて表に出ないで実力を養う、「韜光養晦(とうこうようかい)」という一言で自分の立場を表明している。多弁を要せずに、周辺国に事態を理解させられる。中国外交の重み、深みが見える。

 外交というものは時間、歴史が非常に大事だ。つまり末永くものを考えて対処するということだ。日本の政治家でも、例えば竹島問題では河野一郎が“しばらく触らんでいい、そういう外交がある”と考えて、解決を急がず将来の世代に委ねる方針でやってきた。尖閣についても同様の方針が受け継がれている。つまり、主権を擁護するという強烈な信条と、歴史と時間をかけて守り抜くという信念。その双方が必要だ。

──国有化には寝た子を起こしたとの批判もある。

中曽根:尖閣諸島の国有化については、もう少し時間をかけて見てみないと功罪は判定できない。本来、日本の領土であるものについては法的、政治的条件を十分に整えておくというのは政治の一つの要件だ。野田総理はそれをやったのだろう。着手するにあたって外務省が内閣と一緒になって相当研究したと思う。

──税と社会保障の一体改革をめぐる民自公の三党合意によって、民主党はマニフェストにない消費税増税を決定した。国民の怒りは大きい。

中曽根:政治、外交は時を選ぶというのが重要な要素だ。内部の要素と外部の条件を考えなくてはいけない。野田総理はその点を考えたのだろう。野党は反対できない、そして年間のタイムスケジュールと客観情勢を考えると、今がその時期だと判断したのだろう。

 公約に書いていないからやってはいけない、ということはない。政治は必要と思うことを断行する責任と権利を持っている。その結果は歴史が判断することになる。

関連記事

トピックス

サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
香港の魔窟・九龍城砦のリアルな実態とは…?
《香港の魔窟・九龍城砦に住んだ日本人》アヘン密売、老いた売春婦、違法賭博…無法地帯の“ヤバい実態”とは「でも医療は充実、“ブラックジャック”がいっぱいいた」
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン