出生地も謎に満ちていますが、一般的には美濃(岐阜県)の名門・土岐氏の流れをくむ土岐明智氏出身といわれています。
光秀が美濃出身というのは信じていいところだと思います。そもそも明智という苗字は非常に珍しいのですが、東美濃には明智城(岐阜県可児市)と明知城(岐阜県恵那市)という2つの城がありますからね。
また、光秀の妻・熙子(ひろこ)は、東美濃(岐阜県土岐市)に居城がある妻木(つまき)家の出身と言われています。
同郷の出身で、同じくらいのレベルの家から嫁さんをもらったということではないでしょうか。ドラマで描かれるほどの「いいとこのボンボン」ではないと思いますね。
光秀の主役抜擢は、この熙子の存在が大きいように思います。
光秀はこの時代には珍しく、側室をもたず「一夫一妻」を貫いたとされています。愛人がたくさんいるより、妻に一途なほうが、ホームドラマの主人公として女性に共感されやすいですからね。
2006年『功名が辻』の山内一豊、2009年『天地人』の直江兼続、2014年『軍師官兵衛』の黒田官兵衛と、最近の大河ドラマに「一夫一妻」の主人公が増えているのは偶然ではないでしょう。
史実としては疑わしいですが、光秀が貧しかった頃に熙子が黒髪を売って糊口をしのいだという逸話もあります。現代的な夫婦愛を描くのに、光秀はうってつけの人物だったのかもしれません。
【プロフィール】ほんごう・かずと/昭和35(1960)年、東京都生まれ。東京大学、同大学院で石井進氏、五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。著書に『上皇の日本史』(中央公論新社刊)、『承久の乱』(文藝春秋刊)、『乱と変の日本史』(祥伝社刊)、『東大教授がおしえる やばい日本史』(ダイヤモンド社刊)など。
◆構成/内田和浩
※週刊ポスト2020年1月31日号