王さんは「ヒットを打ちに行くのが基本。その延長がホームランだ」と親切にアドバイスをくださった。ボクはそんな王さん、野村さんに向かって「そんなはずはありません。監督も王さんもホームラン狙いで大振りになっている」と言い返した。2人の呆れた顔は忘れません。さらに「2人で口裏を合わせているんじゃないですか」と続けたら、王さんは「大変な新人が入ってきたね」と呆れ、野村さんには「もう二度と教えてやらん」と怒鳴られました。
たしかに、新人がよくそんなこと言ったと思いますよ。それでもボクは「ホームランの打ち損ねがヒット」の考えでやってきた。野村さんは周囲に「門田はワシが言うことに反対ばかりする」とボヤいていたそうです。
野村さんは、指を亀裂骨折しても鉄板を巻いて平気な顔で試合に出ていました。「調子がいい時はもちろん、悪い時でも普通に出場するのがプロ」が口癖だった。
それをボクも実践した。王さんや野村さんの通算本塁打記録を目標にしていたので、20年以上は現役を続けないといけない。だから健康管理ばかりやっていましたね。
〈結果、門田氏は通算567本塁打を放ち、王氏、野村氏に次ぐ歴代3位の記録を残す。〉
野村さんはオフもずっと野球のことを考えていた。最近は、「門田ほどの野球バカは二度と出ないだろう」と野村流で認めてくれるようになっていたが、野村さんこそ野球に対してバカがつくほど真面目な人でしたよ。
【PROFILE】かどた・ひろみつ/通算567本塁打、同1678打点はいずれも王氏、野村氏に次ぐ歴代3位。野村氏のもとでは7年間で5度の3割を記録した。
※週刊ポスト2020年3月13日号