◆籍を入れないほうがいい理由はない

 実際のところあかねさんにとって、入籍はしてもしなくても、どちらでもいいものになっていたという。ではなぜ、あかねさんは、プロポーズされて嬉しかったのか。

「現実的に考えて、このまま一緒に暮らしていくつもりなら、今の制度上、籍を入れないほうがいい理由はないと思うんです。また、結婚することになったと告げると、周りがすごく喜んでくれる。やっぱり、世の中、事実婚と結婚って全然違うんだなあと思いました。

 そして何より、今ならまだ母親が喜んでくれる。彼はたぶん、そこを一番考えてくれたんだと思います。結局、うれしかったのは、私が実際どう思っているかは別として、彼が私のことや、私の家族のことを考えてくれていた、という点じゃないかなあ」

 しかしそれは同時に、自身のためでもあったのではないか。老いは確実に、康史さんのほうに早くやってくる。独身貴族を貫いていきた康史さんの心変わりの理由はなんだったのだろう。

「私の親のことが大きいとは思うんですが……、今、冷静になって思うのは、昨年、彼は同窓会に行ったんですよ。で、40代と付き合ってるっていったら、同性にすごく羨ましがられたみたいです。一方、女性には、絶対に逃げられるって脅されたと。それが案外、効いてるんじゃないかと思えてきました(笑)」

 たかが紙切れ一枚。されど紙切れ一枚。昨今の、不倫が社会的に非難される状況からも、紙切れ一枚の重さがわかる。結婚は法律・制度的な問題でもあるが、愛情や家族観など、それだけでないものが入り混じる。結婚しない人が増えても、結婚のもつ力は衰えていないのだ。

※登場人物の名前は仮名です

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