山中:最初にお母さまにお会いしたときは、脚が弱っていらっしゃるとはいえお元気で、重症度が高い患者さんではありませんでした。
山口:そうなのですか?
山中:知らないかたも多いのですが、基本的に訪問診療は、病院に通えない人が受けるもの。私の診療所には約500人の患者さんがいますが、がんの終末期療養が3分の1。ALSなど難病で動けないかたやひとり暮らしのかたもいます。ただし、山口さんのように、ご家族の介護負担や通院リスクを考慮して引き受けることもあります。
山口:先生に初めてお目にかかったとき、「受け持っている患者さんの9割が80才以上です」とおっしゃっていましたね。それを聞いて、ああ、お年寄りを見慣れておいでだから、これは安心できると思ったんです。
山中:山口さんはね、今日はこんなにきれいな格好をされていますけど、ご自宅では全然違うイメージでした。
山口:いつもパジャマやエプロン姿で、髪の毛もグチャグチャ(笑い)。
山中:山口さんは本当に“いつでも母と”一緒にいらっしゃった。プロであるヘルパーさんよりもお母さまの介護をなんでもされていて。これは山口さんに限った話ではなく、家族が医療者や介護者以上にいろんなサポートをされているケースは多いのです。
山口:でも母の介護は楽でした。私が母に介護といえるようなことをしたのは、2018年の秋から母が亡くなるまでの2か月に満たない期間ですから。それまで母は自分の脚でなんとか歩いていました。トイレやお風呂の介助はありましたけれど、寝たきりの介護に比べたら…。
山中:でもお母さまのわがままを、いつも優しく聞いてあげていらっしゃったじゃないですか?