街ではさまざまな人がマスク買占め(写真/AFP=時事)

 暴力団が頻繁に中国へ出かけていたのは5年ほど前である。ヤクザは自分の好きな焼酎を海外へも持参し、現地の有名レストランに持ち込むなどトラブルメーカーなので、こうしたワガママ三昧に対応できる業者の情報が共有され、ヤクザ御用達の旅行代理店や現地ガイドも誕生した。お目当ては最低賃金で酷使できる技能実習生集めやインターネットカジノの拠点作り、美術品など高額商品の売買、闇での臓器売買など多岐にわたったが、単発の博奕のようなもので、長期的な利益を生み続けるシノギはほとんどなかった。

 今回、中国人観光客を使って日本国内でマスクを買い占めたマカオの組織幹部は「日本のヤクザは態度がでかい割に根性がない。言葉が喋れずハングリーさもない。今回もヤクザは儲け話に乗り遅れた」と辛口である。日本でもマスクの売り切れが続くようになると、このマカオの幹部はヤクザにも声をかけたという。

「結局、どこにも売ってないとヤクザはマスクを集められなかった。中国人マフィアならこの機会に盗んでも集めようとするのに」

 国内で陽性患者が増え、マスクの転売が話題になると一部の組員は、“ラクして稼ぎたい”と考えたようで、あの手この手の儲け話が流れてきた。「中国政府公認の検査キットを手に入れたから医療関係者を紹介してくれ」「利用者減でLCC(格安航空会社)が国際線乗り放題の年間パスを売っている」など、ヤクザお得意の「カネを先にくれ」という詐欺の話ばかり。

 挙げ句の果てには、〈引退された親分の姐さんからです〉と、題された“コロナウイルス対策”の文面がLINEで転送され始める。今回の騒動で出回った有名なデマの“ヤクザバージョン”だ。姐さんの知り合いが武漢のコロナウイルスの研究者で、〈武漢ウイルスは耐熱ではなく56度以上で殺される〉と続く。高齢化が進み、定例会や盃事など集団で集まることが多いヤクザにとって、一般人以上に目に見えないウイルスへの恐怖を感じている表れだろうか。

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