新型コロナの脅威に対し、右往左往するばかりの安倍政権で、首相が最も信を置いているのはやはり今井のようだ。官房長官の菅と文科大臣の萩生田が小中校の全国一斉休校を知ったのは、発表当日のことだという。
「休業補償はどうするんですか?」
首相官邸に呼び出された萩生田が安倍にそう問いただすと、今井が代わって答えた。
「大丈夫です!」
だが、むろん休校を発表した時点では、何も決まっていない。案の定、すぐに働く母親たちからブーイングがあがった。そうして冒頭に記したように、場当たり的に休業補償まで閣議決定していったのである。
安倍内閣では、官房長官の菅ラインと秘書官の今井ラインという二大勢力が、7年を超える長期政権を支えてきた。本来、政権ナンバー2の官房長官と秘書官では立場が異なる。が、首相が絶対的な信頼を置く今井は菅とも互角に渡り合ってきた。
だが、盤石に思えた政権は一枚岩ではなく、いまや中枢の菅と今井が反目しているといわれる。世界中で猛威を振るう新型ウイルスが、見掛け倒しの政権基盤も瓦解させている。
【プロフィール】もり・いさお/1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身。2018年『悪だくみ「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。その他の著作に『官邸官僚』など。
※週刊ポスト2020年3月27日号