「身分証は、詐欺の運営者的なポジションの人間が、デザインソフトなどを使ってそれっぽく作る。名刺などと違い相手に渡さずさっと見せるだけのものですが、あるのとないのじゃ説得力が全然違うんです。だから、所属部署やデザインが実際のものとは違うものでもなんでもいいんです」(M氏)
要はハッタリなわけだが、ではその身分証を末端である「受け子」がどのように入手するのか。
「こうした偽身分証の“デザイン”は私が知る限りでも数十パターンあり、警察だけでなく金融庁、銀行協会バージョンも存在します。これらはコンビニのプリント機に“コード番号”を打ち込めば、すぐにカラー印刷でき、切り取ってパスケースなどにおさめて首からぶら下げれば”それらしく”は見えます」(M氏)
現在のコンビニにあるプリントサービスは、単なるコピー機ではなく、ネットワークに保存されたデータをコピー機から呼び出して印刷する機能を持っている。パソコンやタブレット、スマホからデータをアップロードしておき、予約番号などを共有して遠隔地のコンビニで印刷することも可能だ。逮捕された男は、みずから身分証のようなものを作成したのではなく、このサービスを利用し、誰かがアップロードした“偽身分証データ”をコンビニでカラー印刷しただけなのだ。
賢明な読者ならお気づきかもしれない。であれば、コンビニのサーバーに「偽の身分証」データをアップロードした人物を特定し、特殊詐欺グループの上役を検挙できるのではないか…。
「ネットプリントサービスを使うにあたり、データのアップロードやダウンロードに、身分証はいりません。契約者のわからない、いわゆる“飛ばしスマホ”一台あればすぐにデータをアップでき、末端はコンビニに行ってそのデータをプリントする」
身分がはっきりしなくても使用できるサービスを使うのが、特殊詐欺に関わる連中の絶対的な掟である。飛ばし携帯だけでなく、コンビニやショッピングモールのWifi電波を使う、秘匿性の高いWebブラウザを使うなど、妙に頭が切れるのが彼らだ。
本当は「便利」なはずの「コンビニプリント」。筆者も原稿を出先でプリントしなければならない時などによく利用するが、この手軽さが彼らにとって「武器」になるのである。せっかくの利器も特殊詐欺に利用されたことにより、その便利さが制限されてしまうとしたら、皮肉としか言いようがない。