なぜ、会話がかみ合わないのか。そもそもプレゼント企画を実行するつもりはG氏に無く、彼の正体はよくある「情報商材」販売者に他ならなかった。実際にやりとりしただけで被害に遭わなかったと安心するのはまだ早い。G氏とやりとりをしてしまった森下さんのアカウントは今後、そうした販売者の間で「ターゲットになりうる人」として共有されるのだ。
しかし、筆者が気になったのは、このアカウントが「顔出し」であったこと。継続的に詐欺的に金銭や情報をかすめとることが目的のSNSアカウントは以前から存在していたが、一般的に、こうしたフェイクアカウントが顔写真を使うことはほとんど無い。アップする画像はもっぱら、札束や高級車、高級時計や豪華な料理ばかりで、その人間の顔や本当の属性については一切出てこない。また札束などの写真は、フェイクアカウントで使用するために全く別に撮影された写真であり、写真そのものが詐欺師の間で取引される場合もあるくらいなのだ。
では、G氏がプロフィールとして使用している写真は誰なのか。本当にこのような人物は存在するのか──。
その答えはわずか「0.56秒」で判明した。このGなる人物が「自分」としてアップしていた写真をGoogleの画像検索にかけてみると、よくわからない中国語のサイトに掲載された写真と一致していたのだ。その人物は、中国のインディーズ映画に出演するアマチュアの俳優だった。短髪で目鼻立ちのくっきりした端正な顔立ちに、スリムシルエットのジーンズ、トップスは流行にならい「シュプリーム」のパーカーだ。一見すると、日本人の若者に見えるし、東アジア系のどの国の男性であってもおかしくない雰囲気。
一方、G氏は、SNS上では東京で生活する日本人とうたっていた。しかし画像検索の結果でたどり着いた写真の男性とは、素性が異なる。どちらが本物なのかと比べると、同じ顔で日本人だと主張しているのは、森下さんがやりとりしたSNSアカウントだけだった。G氏が他人の写真を自分だと偽っていると考えるのが妥当だろう。なぜ、単純な画像検索ですぐにわかるような嘘をついてまで、他人の写真を使用するのか。
「出会い系サイト上に存在する偽女性と全く図式は同じ。外国の、そして日本人に雰囲気の似た人たちの写真を勝手に使い、他人になりすまして詐欺を働こうとしているだけです。情報商材系の詐欺師は、自分の顔(とする写真)を見せていれば、相手が引っかかる率が高いと考えている。その為、男女問わず、なりすましに使うための写真を中国や韓国、台湾などのSNSサイトから勝手に引っ張ってくる。写真一枚じゃ不自然だから、同じ人物のあらゆるパターンの写真を集めてストックしています」
こう話すのは、筆者の取材に答えてくれた元暴力団関係者・K氏。確かにかつて、出会い系サイトには、台湾女性の画像を使って日本人を名乗るサクラのアカウントが多数、存在した。サクラというだけならまだファンタジーを楽しませてもらったという好意的な解釈も成り立つが、なかには詐欺や脅迫が目的のものも存在した。数年前、男子高校生が出会い系アプリで女子高生になりすまし電子マネーを要求した事件があったが、このときは台湾の女子高生の写真を勝手に使用していた。