「自宅のある北海道から久々に上京する桜木さんを驚かせるために、樹音さんが“見枝香ちゃん、舞台に立ってみる?”って誘うんです。私、人を驚かせるの嫌いじゃないんで(笑い)、何の打ち合わせもなく、真っ赤な口紅を塗って、樹音さんとステージに立ちました」
“ドッキリ出演”ながら、舞台を見続けてきたので、ステージに上がると体が勝手に動いた。寝そべって開脚すると、客席から喝采を浴びたという。興奮と恍惚のなかで踊り終えた後、自然と涙を流す新井さんに樹音さんが声をかけた。
「見枝香ちゃん、踊り子になったら?」
その日の経験が、カリスマ書店員の人生を変えた。
「舞台の高揚感に包まれて、思わず『はい』と答えたんです。頭で考えたら、私は会社員だし、年齢も年齢だし、踊ったこともないんだけど、でもそれらをすべて取り払って、『やる?』と聞かれて『はい』と答えたことを大事にしようと思ったんです」
書店の仕事終了後にスタジオで踊りの練習を重ね、今年2月、福井県にある劇場「あわらミュージック」でデビューを果たした。
「緊張しないタチなので、思ったよりうまくできました。もともと私には“自分の体は他人のモノ”みたいな感覚があり、裸になることに抵抗はまったくなかった。恥ずかしいと思うポイントが人とズレているのかもしれませんね。裸より足の裏のカサカサを見られる方がイヤ(笑い)。私の裸でお客さんが喜ぶなら、お安い御用です」
そうして“本屋の新井さん”は、“踊り子の新井さん”になった。
◆ステージにパンツ忘れてるよ
「会社のなかには、“舞台上で踊り子と客が本番行為をする”といった昔のストリップをイメージする人もいました。でもいまは女性客が多く、お客さんも親切で、だから随筆の題材にもなると説得しました。
もともと私の会社は音楽などほかのエンターテインメントにかかわりながら書店員をしている人も多く、最終的には『人気者になって本屋のお客が増えるならいいか』と認めてもらえました」
友人や知人の反応も温かいものばかりだった。
「“書店員が脱ぐなんて”と叩かれると思ったけど、『本屋さんがやるのがカッコいい』『やりたいことをやって楽しそう』という反応が多くて意外でした。
親にはこれまでたくさん迷惑をかけてきて、踊り子デビューも伝えていないけど、知っていると思います。誰にも迷惑をかけず、きちんと働いてお金をもらう仕事で人に喜んでもらっているので、『大人になったな』と感心するんじゃないかな」