覚慶の名は一般には馴染みがないが、還俗後の足利義昭といえばわかるだろう。1568年に織田信長の庇護のもとで上洛を果たした、室町幕府最後の第15代将軍である。義輝が殺害されたのち、覚慶は三好長慶の養子・義継の後見人である三好三人衆の手で幽閉状態に置かれていた。予告動画を見る限り、光秀は覚慶の脱走と逃避行に直接関与するようである。
現存する史料の上で、光秀の動向がおぼろげながら見えてくるのはこの「越前時代」で、仏教関係の史料には、光秀が越前の長崎称念寺門前に10年余り居住していたことが記されている。
だが、光秀が美濃を追われた長良川の戦いから義昭の入京までには12年の間隙があり、最近発見された史料によれば、光秀による東奔西走の働きが、荒唐無稽でないことがわかってきた。
肥前国(熊本)細川家家臣の米田家に残された古文書から、光秀が、義昭・信長の上洛以前に近江の田中城(滋賀県高島市)で幕府方として籠城を経験したことが新たにわかった。また、同古文書では光秀が『針薬方』(しんやくほう)という現代の「家庭の医学」に相当する書物の内容を暗誦できた=医師だった、と記されているのである。
NHKがこの新事実をどうドラマに取り入れるのかも興味深い。ドラマ中の光秀はかつて義輝に、「美濃一国を従えてお仕えする」と約束しているが、これも実現されるのかどうか。再開後の『麒麟がくる』も見どころ満載である。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。近著に『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(青春文庫)がある。