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鴻上尚史さんは、コロナ禍のバッシングに「心が折れたと思った」と話す

志駕:本当に、あの空気は嫌でしたよね。演劇界の苦悩に関しては、ぼくも春先に『スマホを落としただけなのに』の舞台を公演途中で自粛しましたから、よくわかります。演劇はずっと前から舞台や役者のスケジュール、稽古場を押さえて、何度も練習を重ねていくから中止になってもいろいろな支払いがあるし、演者だって納得がいかない。だけど主催者はそれをわかっていながら、自粛の判断をしてみんなに伝えないといけない。それが何よりつらかったです。

鴻上:そのあたりを理解してほしくて「好きなことをしている人へのバッシングは好きなことを仕事にしている人が少ないからか」という内容を雑誌に書きました。“だとすれば、芸術への理解の問題ではなく、格差とか貧困の問題ではないか”という問題提起のつもりでしたが、「ふざけるな! 非正規労働をバカにするのか!」と大炎上したのは本当に落ち込みました。

志駕:メンタルは大丈夫だったんですか?

鴻上:ダメでした。心が折れたと思いましたね。演劇は不要不急だからこそ大切なんだという思いが伝わらなかったのもショックだったし、回復まで時間がかかりました。いまとなっては、演劇界にとって重要な教訓だったなと思います。こんなにもライブ業界が不要なものだと思われていたという発見ですね(笑い)。それにしても、コロナによってSNSがこんなに荒れるとは想像もつきませんでした。

志駕:アンジャッシュの渡部建さんの記者会見を見ていても思ったのですが、タレントとSNSの関係性が変わった一年だった気もします。ひとりの不倫がここまで多くの人に叩かれるのか、という驚きもありました。

鴻上:そこもコロナが影響していると思います。みんなが不安でがまんしているのに、なんであいつだけいい思いをするんだと。一致団結や絆が強調されるときほど、排他性が際立つようになる。不倫に限らず、不安でいら立っている人は、誰かを攻撃して安心を得て、自分の存在価値を高めようとする。そんな人間が持つ悪い特性も浮き彫りになった一年だと感じました。

【プロフィール】
志駕晃(しが・あきら)/1963年生まれ。明治大学商学部卒業後、ニッポン放送入社。制作部、編成部等を経て、その傍ら小説を書き始め、2017年に『スマホを落としただけなのに』が第15回『このミステリーがすごい!』大賞〈隠し玉〉に選ばれ、デビュー。同作はシリーズ第2作『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』共々映画化され話題に。著書はほかに『ちょっと一杯のはずだったのに』『オレオレの巣窟』『私が結婚をしない本当の理由』等。

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/1958年生まれ。1981年に劇団「第三舞台」を結成。1987年『朝日のような夕日をつれて’87』で紀伊國屋演劇賞団体賞、1995年『スナフキンの手紙』で岸田國士戯曲賞、2009年戯曲集『グローブ・ジャングル』で読売文学賞受賞。主な著書に、『同調圧力』『「空気」を読んでも従わない』『「空気」と「世間」』『鴻上尚史のほがらか人生相談』『ドン・キホーテ 笑う!』ほか多数。舞台公演のかたわら、ラジオ・パーソナリティー、テレビ番組の司会、映画監督など幅広く活動。

◆撮影/為末直樹

※女性セブン2021年1月7・14日号

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