なぜ余裕がないのか。韓国・文政権にとって2021年前半の山場となるのは、4月に実施されるソウル市長補選と釜山市長補選だ。2020年7月、前ソウル市長は職員からセクハラを告発された後、自殺。釜山市長も同年4月にセクハラ疑惑により任期途中で辞任している。4月の選挙はそれらの補選だが、これが2022年の次期大統領選を占う試金石になるという。
「文在寅大統領は、退任後の自らの身を守るためもありますが、今後30年、50年と永続的に左派政権が続くように、政権に厳しく対峙してきた検察の力を弱めようといくつも布石を打ってきた。大統領や国会議長などを捜査する権限を検察から奪って大統領直轄の高位公職者犯罪捜査庁に移し、政権の腐敗を追及してきた尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長を懲戒委員会にかけて停職2か月の処分を下した。昨年12月には、警察法改正や歴史歪曲処罰法、国家情報院法改正などを次々に強行採決し、権限のさらなる集中に邁進しているのです」(前川氏)
こうした強硬姿勢が災いして、文在寅大統領の支持率は36.7%(リアルメーター・2020年12月14日発表)と過去最低にまで落ち込み、不支持率が上回るようになっている。懲戒処分となった尹検事総長は裁判所に処分取り消しを求め、12月24日に処分の執行停止を勝ち取って職務に復帰している。こうした逆風のなか、文大統領はどう巻き返すつもりなのか。
「文大統領は、北朝鮮との信頼関係を深めれば国民の支持率も回復すると信じている。だから、12月14日には、韓国の脱北者団体らが北朝鮮の人々に向けて体制批判のビラを散布するのを禁止する『対北ビラ禁止法』も強行採決した。これは金正恩の妹の金与正が、ビラ散布を批判したことが発端で、韓国では“金与正命令法”と揶揄されています。これは表現の自由を侵害する法律で、そこまでして北に取り入ろうとしていますが、金正恩は米朝関係の改善になんら貢献しなかった文大統領をすでに見限っているようですから、文大統領が思い描いたようには進まないでしょう」(前川氏)
文大統領の目論見が外れ、北との関係が進展せず支持率も下がったまま、4月のソウル・釜山両市の市長選で与党系候補が負けるとなれば、文政権はいよいよ窮地に追い込まれることになる。