すでに同法に対しては、国連のキンタナ特別報告者が「北朝鮮住民に関与しようとする脱北者と市民団体の活動を厳しく制限するもの」であると批判し、「民主的な機関が適切な手続きによって改正案を再考することを勧告する」とまで述べた。あたかも韓国政府や国会を民主的機関ではないと断定するような強い内容だ。さらに、アメリカ国務省も「北朝鮮への自由な情報流入は継続されなければならない」と法案を批判、日本やイギリスでも政治家やメディアによる反対の声が相次いだ。前川氏が指摘した通り、この法律は韓国が国際社会で言論の自由や人権を重んじる価値観を共有できるパートナーか否かという大きな試金石になりつつあるのだ。
身から出たサビとはいえ、文政権が3月の法施行を強行すれば、世界から孤立し、反動でますます南北融和に前のめりになる可能性もある。それを手ぐすね引いて待ち構えているのが北朝鮮であり、その後ろ盾の中国だ。3国が実質的に同盟関係を結び、日米などと対峙する近未来も絵空事ではなくなる。
「文大統領も必死なのです。左派政権を維持できなければ、歴代大統領の末路のように自分も逮捕される可能性がある。彼の対北融和策は度を越しています。北朝鮮との首脳会談では自ら『南側大統領』と名乗りましたが、韓国憲法は『韓国の領土は朝鮮半島とする』と明記している。文大統領の発言はその根幹を揺るがすうえ、一連の対北政策は利敵行為とも指摘されています。そう認定されれば重い罰を受ける可能性もあるのです」(前川氏)
たった一つの法律が、一枚のビラが、東アジアの国際情勢を大きく動かそうとしている。