その一方で、韓国では批判的な声も少なくなかった。ドラマは、「夫婦は思いやりを忘れてはならない」、「他人を責める前に自分を振り返ろう」というメッセージを投げかけているが、韓国の女性評論家などの間では「男性目線のファンタジードラマで後味が悪い」、「タイトルを『知ってるワイフ』ではなく『バッドハズバンド』に変えるべき」という意見も多かった。「ジュヒョクがウジンとへウォン(ジュヒョクの初恋の相手)を天秤にかけ品定めをするシーンばかりで不快」、「ジュヒョクは優柔不断で無責任で不満ばかり」といった視聴者の厳しい指摘もあった。
それでも視聴率が高かったのは、ウジンの家事・育児に奮闘する姿が韓国の平均的な既婚女性そのもので、共働きの苦労や女性のワンオペ育児の過酷さなど、韓国社会が抱える問題が序実にドラマに反映されており、そこに共感する人が多かったことも大きな理由だろう。
韓国女性の大学進学率は高く、行政職公務員の半数以上が女性というほど女性の社会進出は進んでいるが、その一方で女性労働者の4割以上は非正規雇用である。非正規職を選択する理由の多くは育児だ。だが、子供が大きくなって再就職しようとしても、正社員の求人は非常に少なく非正規職しか選択の余地はない。
OECDによると、韓国の年平均勤労時間は1967時間(OECD平均は1704時間)とOECD加盟国の中で2番目に長く、仕事と育児を両立するのは非常に難しい。加えて、育児休職を「迷惑」と考える韓国社会の風潮も依然として残っているため、子供が生まれると女性が会社を辞めるか、非正規雇用を選択せざるを得ないケースが多いのだ。
韓国では、結婚して出産・育児のために一度社会から離れた女性が再び社会に復帰しようとしても、復帰前と同条件で働くのは至難の業である。韓国では、そんな女性のことを「経断女(経歴断絶女性)」と呼ぶ。『知ってるワイフ』は、「問題を解消していかないといけない」という社会の認識の変化が起きている中で生まれたドラマであり、ドラマのヒロインの姿は、「経断女」と呼ばれる多くの韓国女性の境遇と重なったことだろう。日本でも同様の問題が取りざたされている今、ヒロインの姿は日本女性の目にどう映ったのだろうか。
【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。