もちろん、世界からは疑問の声も出ます。あれだけ軍備増強しているドイツにオリンピックをやらせていいのか、ユダヤ人差別を公言するようなヒトラーでいいのか、といった当然の反応でした。しかし、当時のIOC会長アベリー・ブランデージは、「オリンピックは平和の祭典だから、開催されれば世界は平和になる」という理屈で押し切ったのです。今の日本人も多くが信じているこの理念があだになり、ベルリン五輪は開催されてしまいました。
ヒトラーは白人(アーリア民族)至上主義者でしたから、ナチスドイツをローマ帝国の後継者である「第三帝国」にすると宣言します。その演出のために思いついたのが「聖火リレー」です。ギリシャのオリンピアで採火した聖火をドイツまで運んでくることで、「自分たちはギリシャ=ローマ文明の正統な後継者である」と世界にアピールしたわけです。
また、本格的なオリンピックの「記録映画」を作ったのもベルリン大会が最初です。自国の選手強化にも努めて、金メダルの数でもメダル総数でもドイツがアメリカを抑えてトップになりましたから、「ドイツはアメリカに勝ち、世界に勝った」と宣言し、ドイツ国民は大人も子供も「ヒトラー万歳」になりました。そして、オリンピックの2年後からオーストリア併合、ポーランド侵攻、チェコスロバキア解体など世界侵略を進めていったのです。
これは人類の教訓です。独裁国家や独裁者にオリンピックをやらせて成功させてしまうと、世界平和どころか世界の悲劇が起きるのです。ナチスドイツの二の舞を演じさせないためにも、他国への示威行動や少数民族弾圧を続ける中国で開催されるオリンピックはボイコットすべきです。