「まだ小娘だった私に……」
同作にマドンナとして出演した吉沢京子(67)が語る。
「田中さんがご家族に見守られて静かに逝かれたというニュースを見て、あの優しい優しいどんぐり眼が、見守られながら静かに閉じたのかしらと思いを馳せていました」
半世紀前の撮影現場での思い出をこう明かす。
「当時の私は、夢中になって観ていた『若大将』への出演が決まって、大人の仲間入りができると心躍ったものです。加山さんはあんなに二枚目の素敵な方だから撮影の合間はクールなのかしらとオドオドしていましたが、ものすごく気さくな方で撮影時にもよく気にかけてくださった。
田中さんは“青大将”の軽薄さや破天荒さが全くない方で、そのギャップに驚きました。ご挨拶の時にまだ16歳の小娘だった私にも、『どうも』ってあの独特な言い回しで挨拶をしてくださって。この作品では田中さんが8年がかりで京南大学を卒業するシーンがあって、学ランに角帽を被った田中さんがおどけたポーズで周囲を和ませていたのも記憶に残っています」
撮影の合間に、加山と田中さんが車で出かけていくこともあったという。
「見た目も中身も全く違う2人なのに、共演者の枠を超えてすごくいい男同士の空気をまとっていらっしゃった。その絶妙なコンビネーションで撮影もスムーズに進行していました。子供だった私から見ても、そんな2人がまぶしかったですね」
「若大将」シリーズ終了後の1983年に田中さんをインタビューした映画評論家の野村正昭氏が語る。
「田中さんは主演作も少なくはないのですが、加山さん以外にも高倉健さんはじめ大物俳優との共演が多く、『相手を引き立てる役が性に合っている』ということを語っていたのが印象に残っています。『若大将』シリーズは田中さん演じる“青大将”という存在があったからこそ“若大将”というキャラクターが確立した。シリーズが長く続いたのは、日本映画屈指の名コンビの関係性の妙があったことが一番大きかったと思います」
加山のスター街道は、「邦さん」が照らしたことで始まったのだろう。
※週刊ポスト2021年4月30日号