山本陽子に負けない印象を残したのが、2004年にテレビ朝日開局45周年企画でドラマ化された際に主演を務めた米倉涼子だ。
過去のインタビューで米倉は、〈これをやったことで、“米倉涼子”に向けられる目が変わった、とは思いました。“悪女”という場所に私の需要があったというのも、発見でしたね〉(『GINGER』2020年10月号)と答えている。
身震いしたのは視聴者だけではない。「当時は共演者の俳優からも“カメラが回っている時の米倉さんが怖すぎる”といった声があがっていた」(テレビ朝日関係者)という。
『黒革の手帖』を含め、松本清張悪女三部作と呼ばれる『けものみち』『わるいやつら』でも米倉は主演を務め、〈彼女たちはどこか腹黒かったり、コンプレックスがあったりと、いわゆるヒロインっぽくないんです。そのひねくれっぷりが…うまく言葉では表現できないんですが、私にはしっくりくる〉(『日経エンタテインメント!』2014年7月号)と語っていた。
「悪女っていうのは『お金』『秘密』『美貌』『演技力』の4つがないとダメ。この4つを持たせて絵になる女優さんはなかなかいません。米倉さんはちょうど脂が乗ってきたタイミングで清張作品と出会い、その後の女優人生を決定づけたように思いますね」(荻野氏)
まさに女優を選ぶのが松本清張作品で、美しいだけではなく、毒や芯の強さを表現できる女優が欠かせない。
24歳という若さで『けものみち』(1982年、NHK)の主人公・成沢民子を演じたのは名取裕子だ。半身不随の夫を失火に見せかけて焼き殺し、政界の黒幕とされる老人の妾となり、愛欲にまみれていく女を演じた。毎回のように大胆なベッドシーンがあり、当時NHKの作品では異色の存在だった。
「名取さんが演じた民子は欲望むき出しの女で、二代目黄門様の西村晃さんが演じる政界の黒幕の大金持ちに接近していく。老人にじわじわと迫っていくいやらしさがジェームス三木先生の脚本と相まって、どこまでもドロドロとした印象を残します」(荻野氏)
女に嫌われる悪女
『スチュワーデス物語』(1983年、TBS系)の片平なぎさは、ヒロインの敵役として存在感を放った。風間杜夫演じる元婚約者の指導教官に「あなたのせいよ」と、手袋をはずして義手を見せつけるシーンは衝撃的だった。ヒロイン役の堀ちえみに嫌がらせを繰り返す役でもあったので、片平は〈街に出ると、子供たちに石を投げられたこともありましたね〉(『週刊現代』2018年11月17日号)と振り返っている。
「堀ちえみの可愛いキャラの対極として片平なぎさが出てきて、要所要所で口を使って手袋を脱ぐ。怖いけど、毎回『待ってました』って感じで視聴者は心待ちにしていました。視聴率が下がりそうになると片平さんが登場すると言われるほど、嫌われつつも人気が高かった」(荻野氏)