さまざまな主張をする筧被告
そのため彼女と話すことのできる最後の機会との思いで、断られることを覚悟して、大阪拘置所にやって来たのだった。だがそれは拍子抜けするほどに、あっけなく叶えられた。
「ご無沙汰しています。こないだ最高裁で判決が出たでしょ。それでもう会えなくなるから、今日は千佐子さんに最後のご挨拶ができればとやって来ました」
私がそう口にすると、彼女は表情を変えずに切り返す。
「まあね、私も覚悟してるから。生きる気力もなくなって、明日、1年後、3年後、まったくわからんからね。そうや先生、私が死ぬのわかったら、教えに来て」
以前から千佐子は私のことを「先生」と呼ぶ。たぶん他の記者に対しても同じだろう。どう思っているかということではなく、便利な呼称として使っているのだ。
「教えに来てって……」
私が言葉に詰まると、彼女はアクリル板に顔を近づけ、速射砲のように話し始めた。
「そら、怖さがないと言ったら嘘になるよ。もともと小学校の頃から怖がりなんやから。せやから、(死刑については)あえて思わないようにしてるんよ。これからなにしたいとか考えたら、よけい落ち込むわ。もうね、明日なに食べるかとかしか考えとらんのよ」