その言葉を聞き、既視感を覚える。彼女は前にも次のように言ったことがあるのだ。
「先生、ちょっと手え見せて。先生、手えキレイやなあ。女の人よりもキレイちゃう? 見てこれ、私なんてもうガサガサや。私も昔はオシャレやったんやけど、ここ入ってから、もう全然構わんくなったんよ。男の人がおらんのやもん。やっぱ、男の人がおらんと、そういう気にはならんわ」
これもまた、彼女がこれまで高齢男性を籠絡する際に使ってきた“技”なのだろうと感じていた。そしてそれは今回の発言によって、彼女のなかに染みついているものなのだと確信した。
面会に許された時間は15分間。それはあっという間に過ぎ、終了を告げるベルが鳴った。私は今回会ってくれたことについて、礼の言葉を述べた。
「まあな、先生もせっかく来てくれたしな。嫌な人は何人かいるけど、私はそういう人とは会いません」
脇の女性刑務官に促され、千佐子は立ち上がる。私も立ち上がり頭を下げて言った。
「千佐子さん、私がこう言うのもなんだけど、お元気で。どうもありがとう」
「ありがとうね。私はこれでサヨナラ」
彼女ははっきりした声でそう言うと、広げた両掌をこちらに向け、胸の前でひらひらと振る。
それは少女のような振る舞いだった。やがて彼女は踵を返すと、小さな背中は金属製の扉の向こうへと消えていった。