車椅子の物理学者として一般にも知られたスティーブン・ホーキング博士。2018年死去(AFP=時事)

車椅子の物理学者として一般にも知られたスティーブン・ホーキング博士。2018年死去(AFP=時事)

 あくまでアンダーグラウンド、日本中のマスを席巻した一大ムーブメントではない。1995年といえばオウム真理教が地下鉄サリン事件を起こし、『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビ放送開始、Windows 95が発売された年でもある。ちょうどその年、青山正明の編集による『危ない1号』発売、その成功を受けて悪趣味、不謹慎、のちに鬼畜系とも呼ばれる雑誌や書籍が中小出版社を中心に乱発された。ちょうどパソコン通信とインターネットの境目、なんともカオスな年である。

 ただし「Quick Japan」がその悪趣味、不謹慎系の雑誌だったかといえば否である。あくまで当事者である小山田圭吾と連載担当の村上清、編集人兼発行人だった赤田祐一らの人権意識の問題だろう。いじめという名の犯罪自慢と差別まみれのインタビュー、1990年代でもあれはない。

「そう、時代とか、ブームとかじゃないですよね。被害者がいて、たくさんの人がいまも苦しんでいる。当時はそうだったなんて、それで納得できるわけがないです」

 まったくそのとおりで、昔はコンプライアンスもモラルも低かったと言われても、小山田圭吾のような連中による校内犯罪の被害者からすれば納得できるわけがない。

「でも苦しめた側はなんとも思ってない、というか忘れてたりする。今回だって有名なミュージシャンが公の場に選ばれたから問題になったわけで、その辺の校内犯罪者は家庭を築いて幸せにやってる。別に不幸になれとは思わないけど、やられたほうは一方的に恨むばかりで苦しいなんて、理不尽過ぎます」

 筆者の中学でも生徒による校内犯罪が多発していた。それらのほとんどは表沙汰にはならず学内で処理されるか、田舎近所の噂程度で放置された。とくに学年ひとつ上の先輩は酷い虐待を受け、その後しばらくして自ら命を絶った。加害側の先輩たちを知っているが、その一人はずいぶん前の話、やんちゃそうな子どもを連れて野田のショッピングモールを闊歩していた。おそらく、虐待のあげく自殺した同級生のことなど覚えていないかもしれない。いまさら具体的な形で表沙汰になることも、平凡な一家庭の父でいる限りはないだろう。

「若かったからとか、ワルだったとかネタにしますけど、やられたこっちにしてみたらネタじゃ済まない。そもそもやったことは犯罪です。どうして社会では暴行罪や侮辱罪なのに、校内ではいじめなんですかね」

 やった側にすればただの「いじめ」でしかなく、面白おかしい武勇伝や「ネタ」でしかないが、やられた側にとっては校内犯罪の被害者として一生の苦しみを味わうことになる。自死に至らなくとも、忘れることのできないトラウマを背負わされる。

一方通行な不道徳はもう通用しない

 問題の記事は、その発言内容だけが悪質なのではない。インタビュー中、小山田圭吾は「会ったら会ったでおもしろいかな」とSくんやMくんに会いたいと語った。村上清は編集部の赤田祐一や北尾修一に話し、企画の了承を得てMくん(住み込みで働き音信不通)の母親に電話取材をしている。当然、母親は小山田圭吾との対談を拒んだ。Sくん(障害が重くなり会話も困難な状況)に至っては自宅に突撃、こちらも小山田圭吾との対談は実現しなかったが、村上清はSくんと会った印象を「ちょっとホーキング(ALSに苦しみながら量子宇宙論に挑んだ物理学者)入ってる」と書いている。前後の文脈からALS患者の特徴を揶揄したことは明白だろう。Sくん一家、Mくん一家の苦しみは、小山田圭吾とその一味にとっては面白い「ネタ」でしかなかった。まるでおもちゃで遊ぶように。

「彼ら業界の大先輩たちに言うのも気が引けますが、もうそんな時代じゃないです。昔の雑誌は読者がハガキや電話で文句言っておしまいでしたけど、いまや読者はSNSという手段を持ってます。一方通行な不道徳はもう通用しない。まして小山田圭吾は人気ミュージシャンでオリンピック・パラリンピックの音楽担当に選ばれる立場でした」

関連記事

トピックス

荒川静香さん以来、約20年ぶりの金メダルを目指す坂本花織選手(写真/AFLO)
《2026年大予測》ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート 坂本花織選手、“りくりゅう”ペアなど日本の「メダル連発」に期待 浅田真央の動向にも注目
女性セブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
舞台『シッダールタ』での草なぎ。東京・世田谷パブリックシアター(~2025年12月27日)、兵庫県立芸術文化センター(2026年1月10日~1月18日)にて上演(撮影・細野晋司)
《草なぎ剛のタフさとストイックさ》新幹線の車掌に始まり、悟りの境地にたどり着く舞台では立見席も
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
「異物混入」問題のその後は…(時事通信フォト)
《ネズミ混入騒動》「すき家」の現役クルーが打ち明ける新たな“防止策”…冷蔵庫内にも監視カメラを設置に「なんだか疑われているような」
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン