恋人に送った流行りの指輪
歌詞の中では、上京した男性が、地方で待つ恋人に指輪を送る。そんな歌詞が描く情景から想像されるのは当時、都会に出てきた若者たちの経済状況だ。
「年次統計」が出典した厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、1975年の大卒初任給は8万9300円で、現在の価値に換算すると16万1758円になる。1973年の6万2300円(15万9017円)から比べると、2万7000円のアップとなるも、第一次オイルショックの影響を受け、経済状況は厳しい時代だったことがうかがえる。
〈当時、つきあっていた彼は四畳半一間の下宿に住む浪人生。風呂なしの共同トイレで、家賃はたしか2万円ぐらい。大家さんに内緒で、ほぼ半同棲のような生活を送っていましたね。銭湯に毎日行くお金がないから、やかんでお湯を沸かしてタライで髪を洗って体を拭いたり。夜鳴きそばをお椀に1杯だけ買って、ふたりで分け合って食べたり。貧しかったけど、彼と過ごしたあの時間は私の人生の中で最も充実していたと思います。それぞれの事情で別れてしまったけれど、縁日で買ってもらったプラスチックの指輪はいまでも私の宝物です〉(主婦・70才)
今も昔も東京はファッションの中心地
都会に染まっていく男性は、地方にいる恋人に以前と変わらないままか問いかける。そんな曲のシーンから透けて見えるのは、当時のファッションの様子だ。都会では女性が当たり前のようにつけていた「くち紅」も、地方では特別なものだったのだろうか。1970年代の東京は、今も昔も日本におけるファッションの中心地だ。
「1960年代はミニスカート全盛でしたが、1970年に公開された映画『いちご白書』の頃からヒッピー風なファッションがブームとなり、ベルボトムのジーンズをはく女性たちが増えました。また、かぎ針編みのニットなど、フォークロア風な洋服も人気となりました」(ファッション評論家・日置千弓さん)
〈先日、終活のために部屋を整理していたら、懐かしいものが出てきました。20代前半に交際していた彼との思い出がいっぱい詰まっているアルバム。「今日の服、似合ってるよ」って言われたワンピースを着て、ふたり並んで満面の笑みで写ってる私。それから数年後に「好きな人ができた」と冷たく振られることなんてそのときは思いもしなかった。悔しくて何度も捨てようと思ったけど、やっぱり今回も捨てられなかった〉(自営業・68才)
取材・文/加藤みのり
※女性セブン2021年12月2日号