「小磯の鼻」を歩かれる
美智子さま「ご出産はいつ?」
たくさんの思い出がつまった葉山御用邸に、上皇ご夫妻が到着した後、近隣住民の多くは「小磯の鼻」へと移動した。
普段であれば「小磯の鼻」を散策されることもあったが、コロナ禍ということもあり、付近にいた警察官も「密を避けるためにもご散策はないでしょう」と話していた。
ところが夕方5時30分過ぎ、小磯の鼻に面した御用邸の小さな扉が開き、ご夫妻が姿をお見せになった。茶系のブルゾン姿でシックな装いの上皇さまに対し、美智子さまは薄手のグレーのハーフコートを羽織られていた。
上皇さまは美智子さまの手をしっかりと握られ、会話されながら芝生の上を歩かれる。大型犬がちょこんと座っているのを見つけられると、美智子さまは身をかがめ、犬の顔をやさしく撫でられていた。
職員に先導される上皇さまと美智子さまが向かわれたのは、小磯の鼻の先端だった。相模湾の海景、江ノ島の彼方に富士山の姿があった。そこに、間もなく沈もうとする太陽が重なった。「ダイヤモンド富士」だ。
上皇さま「ダイヤモンド富士は初めて見たね。いまままでこんなことはなかったからね。実に素晴らしいね」
美智子さま「はい、私も初めて見ました。本当に美しい景色ですね」
ご夫妻は夕陽が沈むまでその場を離れることはなかった。その後、小磯の鼻の先端から御用邸にお戻りになる際には、短い時間ながら、地元住民との会話も楽しまれた。
子連れの母親が身重の体であるのを気づかれた美智子さまは「ご出産はいつ?」と尋ねられた。「1週間後です」という返答に美智子さまは「まあ、もうすぐね。どうぞお身体大切にね、ありがとう」と声をかけられた。
散策はおよそ1時間におよび、あたりはすでに薄暗い。職員がライトで足下を照らす中、ご夫妻は御用邸へと入られた。
上皇ご夫妻の葉山御用邸滞在は2週間の予定だ。戻られるのは、皇太子同妃時代にお住まいになっていた赤御用地内の旧赤坂御所。名称は「仙洞御所」となる。
4月10日が、63回目の結婚記念日だった上皇ご夫妻。結婚60年の「ダイヤモンド婚式」をすでに迎えられた上皇ご夫妻は、“新居”での生活を楽しみにされていることだろう。
取材・文/皇室記者 祓川学