今回の参院選で全国比例から出馬していた辻元清美候補と街頭演説した蓮舫候補。蓮舫候補は、いつもタスキを着用しない(撮影:小川裕夫)

今回の参院選で全国比例から出馬していた辻元清美候補と街頭演説した蓮舫候補。蓮舫候補は、いつもタスキを着用しない(撮影:小川裕夫)

 今井候補の名前は決して難しい漢字ではないが、それでも絵理子を「絵里子」「恵理子」と誤記される可能性はある。それが明らかに今井候補と認識できるなら今井候補の得票になるが、選挙戦を必死になって戦っている候補者の立場になれば、一票でも取りこぼしたくないと考えるのが自然だろう。念には念を入れて、ひらがな混じりの表記にする気持ちは理解できなくもない。それでも、今井候補はフル漢字で選挙に挑んだ。

 自民党だけではなく、他党の候補者も見てみよう。他党でも、フル漢字の候補者は少なくない。立憲民主党から全国比例で出馬した青木愛候補はフル漢字で戦った一人だ。また、れいわ新撰組から東京選挙区で出馬した山本太郎候補も2012年の参議院選からフル漢字を徹底している。

 青木愛候補や山本太郎候補の名前は、難しい漢字ではない。むしろ漢字で表記した方が名前を覚えてもらいやすいかもしれない。そんな事情もある。

選挙運動用タスキを使わない候補者たち

 しかし、今回の参院選に日本維新の会から全国比例で出馬した猪瀬直樹候補は、明らかに難しい漢字の名前の候補者だった。それでも、今回の参院選はポスターもタスキもフル漢字を貫いた。

 ちなみに、猪瀬候補は国政初挑戦だが、2012年には都知事選に出馬した経験がある。そのときのポスターは猪瀬直樹とフル漢字で、街頭演説でタスキを使用していない。猪瀬候補にとっての都知事選は、奇しくも青山候補が理想とした選挙でもあった。

 たかが名前と思うかもしれないが、短い選挙期間で自分の名前を有権者に正しく覚えてもらうことがどれほど難しいのかということが、こうしたことから透けて見える。まして、わざわざ投票所にまで足を運んでもらって、名前を書いてもらうことは非常に大変な苦労を要する。

 つまり、青山候補が理想として掲げた「ひらがなで名前を表記しない」「名前の入ったタスキを着用しない」で選挙活動をすることが無謀な挑戦であると実感できるだろう。

 いくら崇高な政治理念を掲げていても、当選しなければ政治家としてスタートを切れない。事情を把握していれば、青山候補が方針を撤回してタスキを使用しても、それだけで「話が違う!」と咎めることはできない。

 しかし、青山候補が掲げた2つを自然体でこなした候補者がいる。それが、立憲民主党から東京選挙区で出馬した蓮舫候補だ。蓮舫は本名ではなく通称だが、難しい漢字であることは言うまでもなく、その難しい蓮舫のままで参院選を戦った。

2016年の参院選。東京・上野駅の街頭演説で、名前やタスキについて説明した青山繁晴候補(撮影:小川裕夫)

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