緊張した面持ちから一転、フィリップ殿下のジョークで笑顔に。1953年(写真/GettyImage)

緊張した面持ちから一転、フィリップ殿下のジョークで笑顔に。1953年(写真/GettyImage)

それでも事態は収集せず、12月にはチャールズ国王とダイアナ元妃が別居を決めた。このとき、女王は「すべてよい方向に向かうでしょう」と楽観的に述べたが、火種はくすぶり続け、1996年8月に正式に離婚した翌年、ダイアナ元妃が交通事故で死亡した。国民の圧倒的支持を集めていたダイアナ元妃の死後、沈黙を貫いて閉じこもったエリザベス女王は「冷淡」と激しいバッシングに晒され、王室の存続反対を唱える声まで高まった。

ダイアナ元妃の葬儀前日の9月5日、王室への怒りがピークに達しようかというとき、女王は突如休暇を切り上げてロンドンに戻り、バッキンガム宮殿のゲート前に姿を現す。そこには、国民がダイアナ元妃に贈った花束やメッセージカードが波を打つように積まれていた。国民の弔意を受け止めた女王はその直後、生放送のテレビカメラの前でこうコメントした。

「女王として、祖母として、心から言いたい。われわれは彼女の生き方から多くのことを学びました。明日、みなさんとともに、ダイアナ元妃を失った悲しみと、短すぎる、その生涯への感謝を分かち合いたいと思います」

この演説により、女王と王室へのバッシングはピタリと収まった。女王の心変わりの背後には、フィリップ殿下の助言があったと多賀さんは語る。

「当初、女王は『ダイアナは王室を離脱している。テレビ出演する必要はない』と渋りましたが、フィリップ殿下が『こういうときこそ女王自身が国民に説明をした方がいい』と諭したことで、女王はテレビ演説を決意しました。夫が妻の背中を押したおかげで、英王室は国民から見捨てられず、最大の危機を乗り越えました」(多賀さん)

時には周囲の意見に耳を傾けることで、深みにはまらず解決策を見つけることができるのだ。その後、女王の孫にあたるウイリアム皇太子とヘンリー王子が結婚すると、王室スキャンダルは次の世代へ。2021年3月にヘンリー王子の妻・メーガンさんが「王室内で人種差別発言をされた」と爆弾発言をした直後、女王はすかさず声明を発表した。

《記憶には幅があるものだけれど、非常に深刻に受け止めており、家族内で対処していく。ヘンリー王子、メーガン妃、長男のアーチーは常にとても愛される家族の一員であり続ける》

多賀さんが分析する。

「彼女の暴露に女王は素早く対応し、『記憶には幅がある』とたしなめて諭すような言い方をした上で、ヘンリー一家を『家族の一員』と認めました。哲学的で思慮深い言葉が英国民の心をわしづかみにしました」

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