静鉄は全線が複線のため、高頻度運転が可能。平日の昼間帯でも1時間に7~8本の電車を運行している(撮影:小川裕夫)

静鉄は全線が複線のため、高頻度運転が可能。平日の昼間帯でも1時間に7~8本の電車を運行している(撮影:小川裕夫)

 それにも関わらず、静鉄の1000形が鉄道関係者や鉄道ファンから「革新的」「最先端」と称賛される理由は、静鉄が1000形を新製した点にある。

 鉄道会社は駅舎・ホーム・線路・車両などの設備を保有している。そして、これらの安全対策にもっとも神経を使う。

 最先端の車両は静音性や低振動、燃費といった面で優れているものの、製造費は高い。地方私鉄は経営規模が小さいから、一編成で数億円もする最先端車両を新製することは経済的な事情から難しい。車両だけにコストをかけすぎてしまうと、鉄道会社は簡単に経営が破綻してしまうのだ。そのため、通常は他社で使わなくなった中古車を購入し、それを修理して再使用する。

 地方私鉄で走っている車両は、一般的に国鉄(JR)や大手私鉄で長年にわたって活躍した車両を引き取ってきたケースが目立つ。そうした地方鉄道が多い中で、静鉄は1000形を新製した。

「静鉄がオールステンレス車両を導入した最大の理由は、コストを抑制できることでした。それまで静鉄の車両は鋼製でしたが、鋼製は車体メンテナンスのために定期的に塗装をしなければなりません。現在は8年ごとだった全般検査が、当時は4年に一度だったのです。そのため、メンテナンス費用は莫大でした。少しでもメンテナンス費用を軽減させるためにステンレスを採用したのです。ステンレス車両なら、塗装の費用が抑えられます。そうしたメンテナンス費用の面から、静鉄はステンレス車両を導入することにしたのです」(同)

 地方私鉄でオールステンレスという革新的な車両が誕生した裏には、綿密なコスト計算があった。静鉄が車両を新製する理由は、ほかにも静鉄独自の歴史的な経緯がある。

「現在の静鉄は静岡清水線の一路線しか運行していませんが、かつては静岡市内線と清水市内線、それに秋葉線と駿遠線という路線がありました。静岡市内線と清水市内線は、いわゆる路面電車と呼ばれるような電車ですが、静岡清水線の電車が静岡市内線と清水市内線にも乗り入れをしていました。その関係もあり、静岡清水線・静岡市内線・清水市内線の3路線は車両の規格や電圧を同じに揃える必要があったのです」(同)

 つまり、静鉄の車両は路面電車としても一般の鉄道としても走ることができるハイブリッド規格・性能が求められた。静岡市内線は1962年に、清水市内線は1975年に廃止されたが、両線で使われていた車両は一般の鉄道も走ることができた。そのため、静岡市内線・清水市内線が廃止された後も、静岡清水線に移籍して活躍していた。こうした事情から、1000形も昔の車両と同じ規格・電圧で製造することになった。

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