発達障害の夫と生きて(イラスト/なとみみわ)
ストレスからカサンドラ症候群
夫がいても孤独な毎日、共感してくれる人間もいない。次第に体にも不調が表れるようになり、真行さんはうつ状態だと診断された。同時に、夫は発達障害ではないかとも思うようになったという。
「結婚して約10年たった頃のこと。私は産業カウンセラーとして働いていたのですが、当時、発達障害についてさまざまな情報が入ってくるようになりました。中でもアスペルガー症候群の特徴に夫が当てはまると気づいたのです」
そこで夫とカウンセリングを受けたところ、アスペルガー症候群の傾向があると指摘された。真行さんは加えて、どうやって夫婦関係を構築したらいいのか聞いた。しかし、
「“ご主人は発達障害を抱えながらも自立して生きています。本人に困っていることがないので、このまま変わらないでしょう”と言われ、途方に暮れてしまいました」
それでも真行さんは、夫と理解し合えないか、その後も孤軍奮闘を続け、精神的、肉体的に参ってしまった。
「私のように、家族やパートナーが発達障害で、情緒的な交流ができないことから、不安障害や抑うつ状態などの心身症状を抱えることを『カサンドラ症候群』といいます。私は結婚して約20年、この症状に悩まされました」
結局、真行さんは離婚を決意した。アスペルガー症候群に適応薬はなく、夫が変わることを望んでいないなら自分ひとりでがんばっても意味がない……。そう思い、別れを切り出すと、
「そうですか」
とすぐに離婚届にサインをしてくれたという。
「離婚後、子供たちの親として、夫とはとてもいい関係を築いています。ですから後悔はありません。カサンドラ症候群からも解放されました。ただ、もし当時、私の状況に共感してくれる人がいたら、あそこまで症状が重くならなかったかもしれません」
家族やパートナーが発達障害の場合、周りの人間の方が疲弊し、真行さんのように病気になってしまうケースもある。別居する、離婚するという選択肢もあるが、話を聞いてもらい、共感してもらえる人や場所を作っておくだけでも、精神的に安定するという。
《愛の反対は憎しみではなく無関心だ》というマザー・テレサの言葉があるが、愛する夫や家族に関心を持たれないのはとてもつらい。疲弊する前に、救いの手を差し伸べてくれる場所があることを知っておきたい。
【プロフィール】
シニア産業カウンセラー・真行結子さん/自らの経験を生かし、発達障害の特性があるパートナーを持つ人たちの居場所「フルリール」を運営。著書に『私の夫は発達障害? カサンドラな妻たちが本当の幸せをつかむ方法』(すばる舎)がある。
※女性セブン2023年3月30日・4月6日号
