広島で原爆の投下によって亡くなった朝鮮半島出身者は李グウだけではない。平和記念公園にある韓国人原爆犠牲者慰霊碑には、2800人を超える死没者の名簿が奉納されている。韓国人原爆犠牲者慰霊碑には、すでに述べたとおり、2万人余の犠牲となったと書かれているが、1979年に出版された『広島・長崎の原爆被害』は、広島で被爆した朝鮮半島出身者は3万人前後に上り、そのうち5000人から8000人が犠牲になったと推測するなど正確な数字はよく分からない。
被爆した朝鮮半島出身者の中には戦後に韓国に引き揚げたため、日本人被爆者のように被爆者健康手帳の交付を受けることもなく、医療支援の網から漏れていた。いわば置き去りにされた形の在韓被爆者らは、彼ら自身の粘り強い運動や地元メディアの報道などもあって現在は様々な支援が行なわれるようになっている。
【プロフィール】
竹中明洋(たけなか・あきひろ)/ジャーナリスト。1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。著書に『殺しの柳川 日韓戦後秘史』、『決別 総連と民団の相克77年』(いずれも小学館)がある。