千乃氏が書いた『天国の扉』(金子氏提供)
「会員に守られながら、千乃がキャラバンの車内でやっていたことは、水槽でカタツムリを育て、ティッシュに含ませた水や野菜を与えては愛おしく眺めること。車内を飛ぶハエや蚊を優しく愛でること。宇宙人や天使と対話をして、おとぎ話を膨らませて話すこと。『ムー』やその他のオカルト書籍を読んで、その内容の真偽を宇宙人に問い合わせること……。
近くにいればいるほど、千乃の精神状態の異様さに気付きますよね。それを指摘し、状況を是正しようとすると、千乃から激怒され、追放される。結局、千乃正法会の構造は、千乃の精神的な病による幻聴、幻視、幻想が織りなす狂騒劇という面が強く、オウム真理教や統一教会のようないわゆる破壊的カルトの精神的呪縛・搾取の構造とはあまり同一視できないと思っています」
騒動から3年後の2006年10月25日の夕方。千乃氏はパナウェーブ研究所の敷地に停めたワゴン車の中で、静かに息を引き取った。享年72。生前、千乃氏は「無数のがんにむしばまれている」と訴えていたが、司法解剖の結果、腫瘍はなく、死因は心筋梗塞か脳梗塞、または多臓器不全だろう、とのことだった。
後編では千乃氏の生い立ちから教祖になるまでの過程、当時の会員の証言ほか、現在の千乃正法会について迫る──。
(後編に続く)
【プロフィール】
金田直久(かねだ・なおひさ) 東京生まれ。ライター。学生時代に遭遇した「白装束集団騒動」が忘れられず、10年程前から千乃正法会の取材・調査を開始した。
(取材・文/中野裕子)
