しかし、現状は二番にあるように権門(権力者)は国を憂うること無く、財閥も社稷(国家)のことを忘れている。だから三番から四番で人が栄華をきわめても国が亡ぶこともある、だが、いまの日本の国民は愚かでまったく先が見えていない。国家の運命とは勝ったり負けたり一局の碁のようなものだが、ここで多くの国士が昭和維新に命を懸けて桜のように散ることを惜しまなければ世の中を変えることができるだろう、と言っているわけだ。昭和史はいずれ綿密に語らねばならないので、五番以下は省略し最後の十番だけ引用しよう。

〈十、
 やめよ離騒の一悲曲
 悲歌慷慨の日は去りぬ
 吾等が剣今こそは
 廓清の血に躍るかな〉

 もう悲憤慷慨などしている場合ではない、実行あるのみということだ。ではどうやって実行するか? 「剣(武器)」を用いて廓清すること。現在のガンの手術でも悪いところをすべて切除してしまうことを廓清と言う。それは彼らにとってはまさに二・二六事件の標的となった重臣や財閥を流血を恐れず取り除く、つまり殺すことであった。「廓清の血に躍る」からこそ「問答無用、撃て!」ということになる。

 さて、この項では日本が中国との融和の道を進み、侵略国家にならないように国家の方向性を定めようとした試みがことごとく粉砕され、最終的に中国との泥沼のような戦争に突入し、それがきっかけとなってアメリカやイギリスまでを敵に回した「戦前史」のなかで、まさにその分岐点となった山本権兵衛内閣の崩壊を詳しく分析した。理解を深めるための説明の関係で話が前後したので、最後に年表にまとめておく。

 発端は一九一二年(大正元)、西園寺公望首相の「平和路線」に不満を抱く陸軍が軍部大臣現役武官制を利用し、上原陸相が辞表を提出して西園寺内閣が崩壊したことである。これで第三次桂太郎内閣が成立したが、軍閥支配の内閣に対して政党政治の確立を求めた第一次護憲運動が起こった。

1913年(大正2)
2月 第一次護憲運動が奏功し桂内閣崩壊、第一次山本権兵衛内閣成立。
6月 山本内閣、軍部大臣現役武官制を廃止。
9月 阿部守太郎暗殺事件
1914年(大正3)
1月 シーメンス事件発覚、金剛・ビッカース事件へと発展。
3月 山本内閣総辞職。

 山本内閣の後は、それまで冷や飯を食っていた大隈重信に大命が降下され大隈内閣がスタートした。そして新内閣が発足した年、世界を震撼させる大事件が起こった。

 第一次世界大戦の勃発である。

(「国際連盟への道4」編・完)

※週刊ポスト2023年7月21・28日号

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