羽澤ガーデンで撮影に応じる大山

羽澤ガーデンで撮影に応じる大山

「伝説の3名人」揃い踏み

 どこへ行ってもせわしなく動き、せっかちだった大山先生は、究極の合理主義者でもあった。

 タイトル戦で格式の高い宿に泊まれば、夜は懐石のコース料理が提供される。先付、椀盛、刺身……と順を追って楽しむ流れだ。

 ところが大山先生の場合、こだわりは一切ない。むしろ麻雀を早く始めたいので、「全部いっぺんに持ってきて」と頼んで、片っ端から平らげてしまう。そんな姿を見て、作法を重んじるタイプの原田泰夫先生(九段)は眉をひそめていたこともあったが、大山先生はいっこうに気にしなかった。

 向島の料亭で、一度だけ大山先生の歌を聞いたこともある。

「伊せ喜」という老舗のどじょう店のオーナーだった家室茂吉さんの主催する宴会で、大山先生が披露したのは軍歌だった。大山先生は戦争を経験した世代であるが、当時すでに戦争を知る棋士もほとんどいなくなっていた。

 1977年、僕は撮影のため大山先生を木村義雄・十四世名人の自宅までお連れしたことがある。木村先生は戦前から戦後にかけて活躍した実力制初代名人である。

 当時乗っていたジープに撮影機材を積んで荻窪の大山邸に到着すると、大山先生は朝食の真っ最中。すでに黒塗りのハイヤーが横付けされており、ここからクルマ2台で茅ヶ崎の木村邸を目指す予定だった。

 ところが、玄関から出てきた大山先生は、僕のオンボロジープに興味を示した。
「あたしはコレに乗るから」
「いえいえ先生、ハイヤーがありますから」
「いいから早くクルマを出しなさいよ」

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