2人をつないだ“科学界の一発屋”、キャリー・マリス氏。ノーベル賞受賞が決まった際、サーフィンに興じていたという逸話も(写真/アフロ)

2人をつないだ“科学界の一発屋”、キャリー・マリス氏。ノーベル賞受賞が決まった際、サーフィンに興じていたという逸話も(写真/アフロ)

 ともにニューヨークと東京を拠点にしていたこともあり、あるときはコンサートホールで、またあるときはニューヨークのレストランやバーで親交を深めることになる。

《福岡さんとの対話は、こちらが一方的に刺激を受けているだけですが、とても楽しいのです。それは福岡さんが理系の科学者でありながら、音楽やアート、哲学にも深い知識と理解を持っているからということもあります》

《「最近、何を研究しているんですか?」「どういう本を書いているんですか?」などとその時々の話題を話していると、あっという間に四時間くらい経ってしまう》

『スイッチインタビュー』(NHK)などでの対話をまとめた『音楽と生命』(集英社)の中での坂本さんの発言からはお互いが分かち合える相手に出会えた喜びと、2人の意気投合ぶりがうかがえる。

「坂本さんは『音楽とは何か』を、私は『生命とは何か』をそれぞれの立場で探究していました。音楽と生物学というふうにアプローチの方法は違えど、この世界で起きていることを外部から批評するのではなく、その内部からどう世界が成り立っているのかを自ら考えようとする部分において重なるところがありましたし、そこに至るまでの歩みにも共通点があったと思います」

 坂本さんは東京藝術大学大学院でクラシック音楽を学んだのち、シンセサイザーとコンピューターを駆使した音楽グループ「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成し、世界を驚かせた。しかしその6年後にYMOは“散開”を宣言して活動を休止。坂本さんは映画音楽やピアノソロなど、アナログ的音楽へと方向転換していく。

 一方の福岡さんも、生物学分野において“デジタルからアナログへ回帰”している。幼少期に「幼虫がさなぎを経て蝶になる」という自然の不思議さに魅せられたことから生物学者を志し、科学者の道へ。ところが最初に没入したのは遺伝子研究だった。

「遺伝子というのは究極のデジタル情報であり、実験によってある程度の再現化が可能なわけです。ですが、それを究めてみても生命の本来の意味は解けませんでした。

 例えば、老化した細胞を取り除けば不老不死になるかといえばそうではないですし、逆にあるべき細胞が欠落したとしても不調が起こるとは限らない。

 実際に、私の実験では遺伝子の一部を欠落させたマウスでも不自由なく生きられることがわかったんです。その理由を調べてみると、周囲の要素が互いに協調し、失われた部分を補っていたことがわかりました。これはデジタル的な論理で生命を考えても説明がつかない。

 そのときにふと、昆虫少年だった自分が自然の精妙さに驚いていたときのことがよみがえってきて『そうだ、死を詮索するのではなく、生を探らなければならない』と気がついたんです」

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