現代の社会に合った性暴力への刑罰を整えるべきだという声が大きくなっている(イメージ、時事通信フォト)

現代の社会に合った性暴力への刑罰を整えるべきだという声が大きくなっている(イメージ、時事通信フォト)

「『何で断らなかった?』と言われました。断らなかったから相手もそう思ったとか、こういう話はみんなが知るとよくないから、先生と僕だけの秘密にしようとか、びっくりするようなことを言われ、全く慰められませんでした。挙げ句の果てに”そっち(同性愛)の興味がわいてきたんじゃないか”と笑われました」(浜田さん)

 結局、教師に相談してもダメで、それでも何とか気持ちをはき出したいと、友人や家族にも「冗談風」に話したが、友人からは馬鹿にされ、親からは「男性を好きなわけじゃないよね?」と涙声で心配されるだけで、浜田さんの心情を理解しようという人は、誰一人いなかった。そして自分が被害者なのか、わからなくなった。

「男性間の性被害なんか、誰もまともに聞いてくれず、馬鹿にしたり、気持ち悪がったりするだけです。だから、笑い話として誰かに聞いてもらうほかなく、でも被害に遭ったというモヤモヤはずっと残ったまま。その時、精神的な病気に罹患してはいなかったと思うのですが、性的なことが極端に汚いと思うようになりました」(浜田さん)

 その後、高校を卒業し就職。特に職場に問題はなかったが、次第に他人と話すことが億劫になり、どこにも出かけられなくなった。あれ以後の被害はなかったが、初めての性経験が、何も知らなかった自分に詭弁を弄した先輩からの「騙し討ち」だったこと、今思い返しても吐き気を催すほど気持ち悪かったことなどがフラッシュバックするようになって、自分を惨めに感じたり、やり場のない怒りを思い出してイライラしたりして、日常生活に支障が出始めたのだ。

「異性との性経験もありますが、性的なことがやはりダメでした。彼女に打ち明けたこともありましたが、やはり笑い話になってしまう。被害を受けた時よりもどんどんモヤモヤが大きくなっていくのが分かりましたが、自分ではどうにもできなかった」(浜田さん)

 結局5年以上、部屋に引きこもる生活を送ったが、30才を前に家業を継ぐ形で何とか社会復帰を果たし、今に至っている。

「私が女性だったら、みんなの対応も全く違ったでしょう。ジャニーズ問題を見て、何を今更としか思えません。ジェンダー平等を謳っているような正義を標榜する人たちの視界には、私は入っていなかった。LGBTへの理解が広まっている今、皆さんにも考えてほしいんです」(浜田さん)

「男性上司じゃなくてよかったね」

 明治時代に制定され、2017年に改正されるまで実に100年もの間、刑法における性犯罪の被害者は女性に限定され、異性間の事例のみが対象とされた。「性の多様性」を採り入れた改正刑法の施行後も、性犯罪は異性間で起きるものという考え方は根深く人々の意識にある。親告罪でなくなったこともあって最近は、男性が被害者の事件で加害者男性が逮捕されたという報道も増えてきたが、今もまだ声に出しづらい現状は前出・浜田さんの例でも明らかだ。訴えづらいのは「男性間」での性被害だけではなく、「女性間」でも同様だ。

「加害者は会社の上司で、10才以上年齢が離れていました。当時、大学を卒業し入社したてだった私の教育係が加害者の上司であり、逆らうことは、仕事でもプライベートでも許されなかったんです」

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