作品に奥行きをもたらす「ロケ地」
そうしたなかではあるが、一部には独特なロケ地選びで放送終了後のドラマもある。たとえば、若者に絶大な人気を博した『silent』(フジテレビ系・2022年)で登場した、小田急線の世田谷代田駅から下北沢、そして目黒区松見坂にあるカフェなど。今までテレビドラマで見かけなかったロケ地を選び、その街は聖地となった。放送終了から2年経過した今でも、ファンが訪れた様子をSNSにアップしている。
『silent』と同スタッフで制作された『いちばん好きな花』(フジテレビ系・2023年)も、東急田園都市線界隈で撮影されている。三軒茶屋の中心部のロケを見た時は、とても混雑した場所であることを知っているので「まさか、あの場所で!」と、小さく感動。『下剋上球児』(TBS系・2023年)でも三重県が舞台となり、全面的にロケ地として使用されていた。広々とした球場や、緑の多さ、海が作品に奥行きをもたらしていたことを示すように、テレビドラマにおけるロケ地の影響力は大きい。
長崎県ロケを行う『君が心をくれたから』の初回放送を見て、背景の新鮮さが感じられるのが楽しかった。制作記者会見で、太陽役の山田さんが「映画規模くらいの撮影ができたりとか。ドラマでドローンをふんだんに使ったり、長崎の景色をきれいに撮っていたり。たくさんのエキストラさんが集まって、真冬の寒い中、一緒に撮影してくれたのが印象に残っています」と話していた。
長崎ロケによる、地元の力が一役買って、作品を盛り上げてくれることを願いたい。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、編集、ライター、プロモーション業など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k