ライフ

デジタル復元師・小林泰三氏インタビュー「その渾身の表現から何が伝わってくるか。それが私にとっては作品の真実なんです」

小林泰三氏が新作について語る

小林泰三氏が新作について語る

 日本美術が制作された当時と同じ色、同じ環境で観てみたら……デジタル復元の第一人者による目から鱗の鑑賞入門書『はじめから国宝、なんてないのだ。 感性をひらいて日本美術を鑑賞する』。その著者である京都市在住のデジタル復元師、小林泰三氏(57)に話を聞く。

 そもそも国宝という制度自体、明治期に設けられた〈比較的新しい決め事〉で、『はじめから国宝、なんてないのだ。』と、小林氏は言う。

「考えてみれば当たり前のことですけど。その前提を忘れて、『国宝だから凄い』とか『国宝を幾つ見た』とか、〈スタンプラリー〉的で勿体ない見方を、かつては私自身もしていたんです」

 そうした反省から著者が提唱するのが、〈新しい日本美術の鑑賞法「賞道」〉だ。というと何やら堅苦しいが、要は〈よくよく物を見て、いいところをほめたたえる姿勢で暮らす〉というごくシンプルな生活態度の勧めらしく、私達が国宝という響きや〈「わびさび」という便利な言葉〉からも離れて、より自由な目を持つための、本書は指南書ともいえる。

 そのためにも著者は国宝本来の色をデジタル復元し、『風神雷神図屏風』と蝋燭の下で向き合い、『平治物語絵巻』をスクロールしながら場面を追うなど、当時と同じ環境で楽しもうとする。第一章はその名も、〈国宝をべたべたさわろう〉だ!

「大学の専攻は西洋美術で、モネだったんです。ただ日本美術も当然好きで、浮世絵研究の大家であられる小林忠先生のゼミ旅行に同行したり、大変よくしていただきながら、不義理なことに大学院には進まず、印刷会社に入ったんです。

 そこで出会ったのが今に繋がるレタッチの技術で、地方の美術館で流す映像を作ったり、NHKとハイビジョンの番組を作るうちに、この技術を日本美術に生かしたらもっと面白いことが起きそうだと気づいた。

 特に本書でもご紹介した『花下遊楽図屏風』は私が復元を手がけた初の国宝で、それが後に独立する起点になるんですが、これはもう導かれたとしか言いようがないんですよ。まさか自分が復元を生業とし、賞道を主宰するなんて、想像していませんでしたから」

 ちなみに国宝『花下遊楽図屏風』は、天下人秀吉が慶長3年に開いた「醍醐の花見」の様子を狩野長信が描いたといわれる六曲一双の屏風で、関東大震災で修復中だった右側の真ん中2枚が焼失。白黒写真やスケッチが僅かに残る、曰く付きの国宝だ。小林氏はまず、失われた部分の色彩を当時のスケッチなどから類推し、中央の貴婦人の打掛の色は〈地赤〉だと特定。さらに打掛そのものを複製する〈淀殿の打掛復元プロジェクト〉まで立ち上げた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト)
《横綱昇進》祖父が語る“怪物”大の里の子ども時代「生まれたときから大きく、朝ご飯は2回」「負けず嫌いじゃなかった」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヤクザが路上で客引きをしていた男性を脅すのにトクリュウを呼んで逮捕された(時事通信フォト)
《ヤクザとトクリュウの上下関係が不明に》大阪ミナミでトクリュウを集めて客引き男性を脅して暴力団幹部が逮捕 この事件で”用心棒”はどっちだったのか 
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト))
《地元秘話》横綱昇進の“怪物”大の里は唯一無二の愛されキャラ「トイレにひとりで行けないくらい怖がり」「友達も多くてニコニコしてかわいい子だったわ」
NEWSポストセブン
ミスタープロ野球として、日本中から愛された長嶋茂雄さんが6月3日、89才で亡くなった
長島三奈さん、自身の誕生日に父・長嶋茂雄さんが死去 どんな思いで偉大すぎる父を長年サポートし続けてきたのか
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
金髪美女インフルエンサー(26)が “性的暴力を助長する”と批判殺到の「ふれあい動物園」企画直前にアカウント停止《1000人以上の男性と関係を持つ企画で話題に》
NEWSポストセブン
逮捕された波多野佑哉容疑者(共同通信)。現場になったラブホテル
《名古屋・美人局殺人》「事件現場の“女子大エリア”は治安が悪い」金髪ロングヘアの容疑者女性(19)が被害男性(32)に密着し…事件30分前に見せていた“親密そうな様子”
NEWSポストセブン
東京・昭島市周辺地域の下水処理を行っている多摩川上流水再生センター
《ウンコは資源》排泄大国ニッポンが抱える“黄金の資源”を活用できてない問題「江戸時代の取引金額は10億円前後」「北朝鮮では売買・窃盗の対象にも」
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン