「BPO問題」になるのを恐れてきたテレビ
テレビ局がBPOについて自ら放送する場合、多くはBPOが「やらせ」などで審理して「重大な放送倫理違反」などと裁定した時に検証報告や再発防止策を放送するケースがほとんどだ。問題が発生してから「守り」のために作る番組なので視聴者から見ても反省点ばかり羅列されて魅力的とはいえない。
今回の『ワイドナ』のように「こういう問題をみんなで考えていこう」という番組はむしろポジティブであまり例がない。「思考停止」してマニュアルに従うだけではなく、自分たちで主体的に考えていこうとする前向きな姿勢といえる。
『ワイドナ』ではアンガールズの田中が「ハゲ」という言葉を使えないと弊害が多いと述べていたことが注目される。田中はハゲという言葉をすごく気にしている人がいるなら別だとしながらも、「ハゲ」と「薄毛」の言葉の違いについて持論を展開した。
「『薄毛』じゃ受けない。『ハゲ』ってスパーンと、2文字で『ハゲ』と言うから受けるのに『薄毛』というと全部受けなくなる」
「『ハゲ』の良さはすごく取り回しが効く。パッと出て、パッと受ける。この手軽さなんですよ。おっちゃんとかも『おれ、ハゲだから』ですぐに笑いがとれる。(ハゲは)人類が最初に発見した笑いだと思っている。これをみんな禁止にしたら何か堅苦しくない?」
司会の東野幸治も過度な自主規制に警鐘を鳴らした。「ルッキズムといえば、タイムマシーン3号みたいにデブネタも問題ではないかとどんどんなっていきますものね……」
どこまでがセーフでどこからアウトなのかは時代によって変わってくる。大切なことは芸人やテレビ局の側などがこうやって臆せずに議論を重ねることだ。そういう意味では画期的な番組だった。
テレビの制作現場は何かといえば「BPO問題」になるのを恐れ、監督官庁の総務省から注意されるのを怖がって、思考停止してきた。危ない表現には触れない、マニュアルを作ってそれに沿って対応しよう。問題がありそうならまず謝ってしまえ。ドラマで山本耕史が演じたプロデューサー栗田一也がまさにそういうタイプの人だ。
『ふてほど』は、タイムマシーンという設定を使って、かつて昭和時代のテレビを「不適切な表現および喫煙シーンが含まれますが、時代による文化・風俗の変遷とその是非を問うことを主題にしているため、あえて1986年当時のまま放送します」と注釈つきで放送して、当時の雰囲気を再現している。不適切だった時代を生き生きと甦らせることに成功し、ドラマを見る私たちに今の時代の是非を考えさせる内容になっている。結果的になぜ「不適切」がダメなのかを深く考えようとしないで“思考停止”している現在のテレビの現状を巧妙に描き出している。
『ワイドナ』でも漫才における「ハゲ」という言葉の功罪について芸人同士やテレビ局側が率直に議論するような場を作っている。大事なことはみんなで議論することだと教えている。