お蔵入りの三作目
時系列的に前後しますが、草創期の山口組を描いたのが『山口組三代目』(1973年8月公開)と、次作『三代目襲名』(1974年8月公開)です。
仁義なき戦いシリーズは、広島が舞台です。これ以上のヒットを狙うにはやはり日本一の組織を描くしかない。ヤクザ映画の生みの親、俊藤浩滋プロデューサーはそう考えた。しぶる田岡一雄を口説き、田岡の自伝を原作にして企画したのです。この2作は山口組二代目組長の山口登や、三代目の田岡一雄などが実名で登場します。
『山口組三代目』では、赤貧の少年時代を送った田岡一雄(高倉健)が、1930年代に神戸港の下層労働者となり、山口組二代目の山口登に拾われます。やがて頭角を現す田岡ですが、登を襲撃しようとした大長八郎(菅原文太)を斬殺し、服役することになる。
続く『三代目襲名』では、敗戦後に不良外国人と戦う田岡一雄の姿が描かれました。どちらも山口組を美化しすぎているきらいがあるのですが、この2作は田岡を知る上では貴重な作品です。
前作までのヒットを受け、当然3作目が企画され、『山口組三代目 激突編』としてプロットまで作られたのですが、残念ながら日の目を見ることはありませんでした。
当時の神戸では市長よりも、県警よりも山口組のほうが有名ですから、警察組織としては放っておくことができなかったのでしょう。映画の売り上げが違法なルートで山口組に還流しているのではないかといった疑いをかけ、兵庫県警が徹底的に捜査したんです。そうした外圧もあってお蔵入りとなった。
激突編では経済界や芸能界に進出する山口組と公安のスパイが絡むサスペンスを予定していた。美空ひばりも実名で登場する予定で、芸能界とヤクザの蜜月まで赤裸々に描かれるはずでした。