高校卒業後は連絡を取っていないため、進路についてはわからないという。卒業から10年後に同窓会が開かれたが、水原は参加しなかった。
タイラーが水原のその後を知ったのは、大谷が2018年にエンゼルスへ移籍して以降。一緒にゲームで遊んだ同級生の1人から、水原の写真がスマホに届いた。
「大谷の通訳をやっていると聞いて驚きました。父親は『あのベッドを壊した少年? 今だったらベッドを買ってもらえるくらい稼いでいるよね』と冗談を言っていた」
ダイヤモンドバー高校の教師、ケンプ(57)は、サッカー部に所属していた水原のことをうっすらと覚えていた。
「4年生の時に1年間だけ部に所属していたんだ。ゴールキーパーだったけど3番手。2~3試合に5分ほど使った程度の印象しか残っていない。英語のクラスも担当したけど、あまり目立たない生徒でした。卒業後は連絡を取っていないんです」
同校の同じ学年には当時、水原を含む日本人が5人在籍していたという。そのうちの1人は、取材にこう語った。
「水原君を除く日本人4人は仲良かったのですが、水原君とは学生時代、接点がありませんでした。だから印象が弱いです」
同級生たちが語る水原の素顔は、とにかくおとなしく、影の薄い存在だった。特にスポーツに打ち込んでいたわけでもない彼はその後なぜ、野球の世界に飛び込むことになったのか。
(後編に続く)
【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒。新聞記者、カメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを中心にアジアで活動し、現在は日本を拠点にしている。2011年に『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。
※週刊ポスト2024年5月3・10日号