選手時代は“燃える男”、監督時代は“闘将”と呼ばれた星野仙一氏(時事通信フォト)

選手時代は“燃える男”、監督時代は“闘将”と呼ばれた星野仙一氏(時事通信フォト)

「勝てる監督より客の呼べる監督」って、ちょっと残酷じゃないか

 ボイコット? 強いのに利益を生まないという「ねじれ」への抵抗? 第二次トランプ政権の「トリプル・レッド」とは真逆の状態だ。あっちは「グレートアメリカ」を掲げる大統領に、上院も下院もついてきたというのに。

 球団がこの「ねじれ」に抗しきれなくなったのかどうかは私には分からない。ただ、落合後は客足が回復した、ということは確からしい。

 さらに不可解なのは、立浪和義監督時代になって、今度は「ドラゴンズは3年連続最下位と弱かったのに、観客動員は増えた」という奇妙な現象が起きたことだ。

 コロナ禍明けという理由はあるのだろうが、ファン心理が複雑というか、どうもわけが分からん。

 客の入らん監督はダメだにー、というのは分かる。市場経済の原則だ。

 可哀そうなのは好きな球団の応援にからんで、こんな「大人の事情」を見せつけられた少年ドラファンたちだ。心から同情する。

 私の子供の頃にあった「大人の事情」なんて、「アンチ巨人ビジネス」くらいのものだった。これは、単純でよかった。

 監督になっても「打倒巨人」を打ち出してセルフプロデュースが上手だった星野仙一という人に、ちょっとした違和感を覚えなかったわけじゃない。でも、実際に優勝してしまうんだから、OKでしょ。強いんだから文句は言えない。

 大人になればなるほど、闘魂の裏に商魂があるのは当たり前だと知ったし、むしろないということの欺瞞を強く感じるようになった。

 ただ「勝てる監督より客の呼べる監督」っていう「大人の事情」は、強いドラゴンズを応援したい少年ファンにはちょっと残酷じゃないか。

 勝てなくても、大入りの球場。打てなくても、去らないファン。

 もし、それが「当たり前」というのなら……、一番それを見てほしいのは、天国にいる星野監督だ。きっと「宇野ヘディング事件」のときよりも強烈な怒りで、グラウンドにグラブを叩きつけることだろう。

(第18回に続く)

※『人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた』より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
富坂聰(とみさか・さとし)/1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授、ジャーナリスト。北京大学中文系中退。1994年、『龍の伝人たち』で21世紀国際ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。『中国の地下経済』『中国の論点』『トランプVS習近平』など、中国問題に関する著作多数。物心ついた頃から家族の影響で中日ファンに。還暦を迎え、ドラゴンズに眠る“いじられキャラ”としての潜在的ポテンシャルを伝えるという使命に目覚めた。

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