のちにイスラエル首相となるネタニヤフ氏と対峙する落合信彦氏(撮影/太田真三)
まだインターネットが普及していない頃、「世界」を知る術は限られていた。そんな時代に、紛争地のルポや各国の要人インタビュー、そして独自の情報網によるレポートを日本人に届けたのが、作家・国際ジャーナリストの落合信彦氏だ。のちに世界に飛び出す多くの若者がその著書を貪るように読んだ。著書の累計発行部数は2000万部超。84歳で永眠した同氏の先見性は今もなお、全く色褪せていない。【全3回の第2回】
中東の混迷とクリミア半島の未来を予見
落合氏が伝えてきたことは、現代の世界情勢を考えるうえでも重要な意味を持つ。
昨年10月にイスラエルとイスラム武装組織ハマスは停戦合意を結んだが、今もガザ地区では散発的な戦闘が続く。
イスラエル側の指導者はベンヤミン・ネタニヤフ首相だが、落合氏は同氏を3度にわたりインタビューした。
最初の取材は湾岸戦争後の1991年秋のものだ。まだテルアビブにイラクから撃ち込まれたミサイルの残骸が残るなか、当時、外務次官のポストにあったネタニヤフ氏は落合氏の取材にこう話している。
「真の(中東)和平は当事者双方が完全に納得したものでなければならない。笑顔やきれいごとだけで和平プロセスが進められてはならない。希望的観測に立っての和平交渉などもってのほか。それで平和がくるなら政治家はいらない」(『ザ・ラスト・ディケイド 巨人・奇人・変人』より)
その言葉からは、今に至るまで変わらないネタニヤフ氏の政治姿勢の本質が滲み出ている。
インタビューを通じてイスラエルとアラブ諸国の対立の本質が何かの考察を深めた落合氏は、こうも綴っている。
〈アメリカにしてもヨーロッパ諸国にしてもできるだけ早く中東和平を実現させたい。石油が絡んでいるからだ。だから1993年9月の暫定自治協定のような小手先だけの和平、ガラスの平和にしがみつこうとする。そして失敗を繰り返す〉(同前)
まさに、現代まで続く中東の混迷を言い当てている。
