国内

島田裕巳氏 オウム、ライフスペース、パナウェーブ事件解説

 宗教に今、異変が起きている。スピリチュアルスポットや、京都や奈良の観光寺院には人だかりができる一方、葬儀の簡略化などで寺院の経営基盤は大きく揺らいでいる。異変の陰に何があるのか、宗教学者の島田裕巳氏が解説する。

 * * *
 今、京都や奈良の神社仏閣には老若男女を問わず観光客があふれている。全国各地に散在するパワースポットと呼ばれる場所にも、大勢の人が集まっている。特にこれまでそうした場所で見かけなかった若者の姿が増えているのに驚かされる。こうした現象は一見、宗教への関心の高まりを示しているようだが、その中身は大きく変質している。

 彼らが求めているのは「日常の中の癒やし」であり、従来、宗教が担っていた「病争苦」からの「救い」ではない。その理由は二つある。

 一つ目は、長い歴史のスパンで見れば、今は社会が安定している時期だということにある。確かに東日本大震災が起こったり、北朝鮮のミサイルの脅威もあるが、日本の社会システムそのものは経済の発展が止まったこともあり、かつてないほど安定している。

 やはり社会が安定していた江戸時代には、レジャーとして伊勢参りをはじめとする寺社めぐりが盛んになった。神仏を拝み、桜を愛で、束の間の癒やしを求める姿は、江戸時代の人たちのそれと重なる。

 もう一つは、オウム真理教が1995年に起こした地下鉄サリン事件などを通じて、宗教は「危険なもの」「いかがわしいもの」という警戒感が浸透したことがある。

 オウム事件の後も、1999年には「ライフスペース事件」が起きた。この事件では、シャクティパット(頭部を手で叩く宗教的な病気治療の方法)で死亡した信者の家族について、代表が「死んではいない」と主張し、成田市内のホテルで遺体がミイラ化していく様子を信者が記録し続けた。

 さらに2003年には、電磁波を除けるために白装束をしたパナウェーブ研究所が大きな話題になった。こうした問題が相次いだことで、宗教に対する嫌悪感が高まったといえる。

 だからといって、現代の人間が悩みや苦しみを抱いていないわけではない。問題は、宗教の側が苦しむ人々に「救い」を与える手だてを持っていないことにある。

 日本では年間3万人にものぼる人が自殺しているが、宗教はこうした自殺や孤独死、そして経済的な困窮に対して無力なままなのだ。

※週刊ポスト2012年5月4・11日号

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン